怪しい「解決策」
ついでに全国学力テストについても論じてみる。上の記事で、子安潤は、児童調査票によるクロス集計のデータを問題視している。
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いくつかの疑問を感じる。
一つは、相関させればその結果だろうけれど、それぞれの判断は因果関係の証明ではない。正答率の高い子がそういう環境・条件におかれているだけだ。
二つには、にもかかわらず、読書や朝食を摂るように強制する数値に利用される。
三つには、因果関係として利用されるから、なぜ読書ができないかといった原因と無関係に強制されてしまうことにある。結果として、強制されても読書はできない。
四つには、ひどく「よい子」圧力の強い分析となっていることだ。学校調査にも同様の圧力が見られる。
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なるほど。確かに相関関係すなわち因果関係として、様々な「解決策」が繰り出されるのは確かに危険だし、《ひどく「よい子」圧力の強い分析》となるのは間違いないだろう。
ところで、この百花繚乱の「解決策」の中でも、とりわけ支持が強いのが「食育」だ。安原宏美はこう述べる。
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「道徳」とか「9 条」とか「愛国心」のワーディングの話だと、「なんかやばそう・・・」という気がする人は多いと思う。けれども、「バランスのとれた食事を!」とか「子どもを犯罪から守ろう!」とか「環境をきれいにしよう!」 というのは大筋多くの人が同意できるので、私が権力者なら、こっちで粛々と物事を進めます。「そんな、目くじらたてること?」といわれそうな話で。
2005年7月に食育基本法が施行されました。いまや日本全国の学校等で、食育が行なわれているようです。でも中にはコンビニ弁当や添加物を「毒物」扱いしたりする行き過ぎた授業もあるようです。
かのTOSS の「食育」授業にはこのようなラインナップもあるようです。「自然塩」と「食塩」であさりの「砂出し」の実験があって、「自然塩は3分で殻が開いて、食塩なら5分。よって自然塩のほうが身体にいい」とか書いてある・・・。ええええーーーー!!まず、5分でも開かないと思うけどー(昔撮影でやったことがあります)早く開いたからって体にいいとか悪いとかでもないと思うが。
(「女子リベ 安原宏美--編集者のブログ」:「「食育」も「キレる子ども」から」)
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うわあ。そんな理由で自然塩のほうが健康にいいと言っちゃうのか。すごいTOSSクオリティだな。
ちなみに狂信的な「食育」推進論者が軒並み敵視するのは砂糖である。これまた安原によれば、服部幸應はこういう風に書いているという。
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箸の使い方や偏食などを正す指導や注意をされないままで済まされ、それに慣れてしまうと、ほかのことで親から注意や意見をされたときに、ムカついてキレる原因につながってしまいます。
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(清涼飲料水を飲むと低血糖になって)、アドレナリンというホルモンが出ます。これは一種の闘争ホルモンでこれが出てくることで興奮状態になり暴力的な精神状態になってきます。低血糖の状態を補うためにアドレナリンが一気に出てきて興奮状態になるので、いきなりキレてしまい、しかも脳が活動していないために、自分でもわけがわからないうちに、人に暴力をふるったりしてしまうことが起こるといわれてます。
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もちろんこれは科学的に誤りだ。例えば横浜国際バイオ研究所社長の橋本仁は以下のように述べる。
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1998年1月28日栃木県黒磯市で、中学校の女性教諭が男子生徒にナイフで刺殺された事件がありました。
事件の解説記事の見出しは、「キレる、いじめ-食生活に原因」、「食に関する教育の周知徹底を」、「砂糖の摂りすぎが心を不安定に」となっており、本文中に、某教授のコメントがあって「『栃木県の女性教師刺殺事件が起こった時、生徒がキレた状況は砂糖を大量に摂ったときの症状と似ているなと思った』砂糖を大量に摂ると、体内でインシュリンが大量に分泌され、血糖値が下がりすぎ、いらいらしたり暴力行為を起こしたりする。子供たちの心が不安定な原因の 1つは砂糖の摂りすぎにあると某教授は考えている。」と書かれていました。
砂糖の摂りすぎによって低血糖が起きるということは、世界的にも科学的に否定されていることです。しかし、そうした記事が出ましたので、改めて「砂糖を科学する会」のメンバーである山梨医科大学の佐藤章夫教授にヒトを使った検証をお願いしました。学生に1回75gの砂糖を1日4回食べさせ、血糖値を計測するというものです。これは1日当たり300g、日本人の平均摂取量の6倍という高い水準ですが、それでも低血糖にはならないことが証明されています。
さらに、浜松医科大学の高田明和教授は子供の脳には糖分が不可欠であり、脳内のドーパミンやセロトニンが増えることによって精神は安定し楽しくなる。そして、こうした脳内物質を増やすためには、砂糖や肉が重要な役割を果たしているとおっしゃっています。
(橋本仁「砂糖への疑惑の払拭」)
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だが、服部のような主張は、例えば幕内秀夫も言っている(『勉強以前の「頭の良い子ども」をつくる基本食 』講談社、など)。彼らの言い分は、栄養学的に設計された食事は役に立たない、伝統に基づいた食事こそが一番なのだ、というものだろう。だが、そのような認識こそが、疑似科学の温床である(「科学ではわからないことがある」ということを金科玉条の如く振りかざす疑似科学者や似非霊能者のように。ついでにこの手の論者が、犯罪や教育の統計について呆れるほど無知なのは仕様です)。
ちなみに松永和紀は、戦後の日本人の栄養が著しく改善されたことに触れ、こう述べている。
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昔の平均的な日本人の食生活は貧しく、それが短命につながっていたというのは栄養学者の一致するところです。日本人は戦後しばらくまで、平均寿命が60歳に届きませんでした。生活改良普及員や保健婦などの地道な生活指導のおかげで、世界一の長寿国になったのです。
ところが、昔の日本人が味噌をはじめとする大豆製品を多く食べ、健康的な生活を送っていたような錯覚が、一部の研究者や料理研究科、マスメディアなどによってまき散らされています。一時期流行した粗食など、どれほどマスメディアでもてはやされたことでしょうか。
(松永和紀『メディア・バイアス』光文社新書、pp.161)
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これが正しい認識だと思う。
ところで、別に「今日行く審議会@はてな」の記事「フィンランド探し」にけちをつけるわけではないが(というより全面的に支持しています)、服部や幕内は、学力が最高だといわれているフィンランドの食生活を調査したらどうでしょうか(棒読み)。どうせたくさんの支持者と大手の新聞社や出版社がバックについているのですから、これくらいやらなければ顔が立たないというものでしょ。
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