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2007年11月14日 (水)

「セカンドライフ」の現実と幻想

 「冬枯れの街」の「…いい、私が作る!これ以上ダメージ受けたくない。」で知ったのだが、野村総合研究所が、インターネット上のコミュニティである「セカンドライフ」についての調査結果を発表した。おもしろかったのでメモする。

 1. 「セカンドライフ」は日本に定着しているか?

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 NRI(筆者注:野村総研)は、日本在住のインターネット利用者約10万人に対して、「セカンドライフ」の利用経験などに関する事前調査を実施しました。その結果、「セカンドライフ」を「知っている」と答えた回答者は53.6%、「利用している(ログインしたことがある)」という回答者は2.4%でした。

 この2.4%の回答者の中から1,000人を無作為抽出して「セカンドライフ」利用について尋ねたところ、「面白かった。今後も継続的に利用したい」と感じている人は27.1%にとどまり、利用の定着までには至っていないと考えられます。
 (野村総合研究所「三次元仮想世界「セカンドライフ」の日米における利用実態を調査」。以下、特に断りがなければ引用は全てここから)

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 要するに、「セカンドライフ」に《「利用している(ログインしたことがある)」という回答者は2.4%》で、さらに《「面白かった。今後も継続的に利用したい」と感じている人は27.1%にとどま》っているということは、全体で「セカンドライフ」について《「面白かった。今後も継続的に利用したい」と感じている人》は0.024かける0.271=0.006504、つまり0.65パーセントに過ぎないということになる。

 2. 「セカンドライフ」はどのように利用されているか

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 米国の利用者が、「セカンドライフ」の魅力として挙げた上位3項目は「自分のアバターを作って着飾れること」「他の人とテキストチャットを楽しめること」「モノ(オブジェクトやスクリプト)を作れること」であり、米国では創造・所有やコミュニケーションの場として「セカンドライフ」を活用されている傾向がみられます。一方、日本の利用者は「企業の島や建物を見られること」「自分のアバターを作って着飾れること」「イベントやテーマパークなどで遊べること」が多く、米国の利用者と比べて「セカンドライフ」で得られる体験に魅力を感じていることが分かりました。

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 要するに日本人利用者は、米国人のように「セカンドライフ」を金儲けやクリエイティブな活動の手段として考えているのではなく、ただ単にその中で「遊べる」ことを重視しているように見て取れるようだ。そうすると、我が国にとっての「セカンドライフ」は、mixiなどのSNSとほぼ同類なのかもしれない。

 そうすると、「Voice」(PHP研究所)平成19年9月号での石原慎太郎と宮台真司の対談における宮台の発言はかなり現実離れしたもの、ということになる。

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宮台 彼らは「セカンドライフ」上では活動的なのです。生活保護を受けながら「セカンドライフ」で億万長者として暮らす者もいます。二十四時間中睡眠に五時間、食事に一時間使い、残りを「セカンドライフ」内の経済活動に充てて専用通貨を稼ぎ、換金してカップラーメンを買ってすするという生活です。

石原 しかし、バーチャルな世界で味わう満足感は結局、いつか崩れて消えてしまうでしょう。

宮台 それでもこれからはそういう人が増えます。そうした流れを認識することがニート問題に近づく一歩です。ニートには、「現実に怯えて前に踏み出せない者」と、「わざわざ訓練して社会に出ることに意味を認めない者」が含まれます。前者は、経験値を高める訓練で不安を克服すればOKです。後者は「自分が自分であるために社会や他者が必要」と感じないように育ち上がっており、簡単に引き戻せません。愛国教育や道徳教育が足りないのでもない。国にコミットする以前に、社会にコミットしないのですから。
 (石原慎太郎、宮台真司「「守るべき日本」とは何か」(「Voice」2007年9月号、pp.80-89、PHP研究所)pp.85、2007年8月)

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 私はこの発言が収録されている対談を批判したとき、「そんなこと本当にあるのかよ」と軽く突っ込みを入れる程度だったが、これにより統計的にも疑念が提示できるようになった、ということになる(のかな)。

 野村総研の「セカンドライフ」研究(というよりこの発表)で不足しているのは、どういう層が「セカンドライフ」に参画し、またどういう社会的機能が形成されているか、ということであるが、少なくともインターネット上のコミュニティについては、池田謙一(編著)『インターネット・コミュニティと日常世界』(誠信書房、2005年10月)や宮田加久子『きずなをつなぐメディア』(NTT出版、2005年3月)などで研究がいくらか為されている。

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 NRIでは今後も、「セカンドライフ」に代表される仮想世界の技術および利用動向を調査し、技術開発や仮想世界を活用する企業への提言に役立てていきます。なお、今回の調査の詳しい分析結果は、2008年春に単行本「仮想世界ロードマップ―これから社会はどう変わるのか」(仮)として、東洋経済新報社より発行する予定です。

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 楽しみにしています。なお、野村総研は、最近も『大衆化するIT消費』(東洋経済新報社、2007年10月)という本を出した。これもチェックしておく必要があるかな。

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2007年10月30日 (火)

コメントへの返答(H19.10.30)

 「全国学力テストから遠く離れて」にいただいた、以下のコメントについて回答いたします。

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本論からずれて申し訳ないですが、給食費の未納の増加は「親のモラルの低下」が主因なのではないですか?
給食費未納問題の客観的な調査とは具体的にどうやればいいか教えていただきたいです。

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 実を言いますと、調査については既に文部科学省によって為されており、平成19年1月にその結果を発表しております。「学校給食費の徴収状況に関する調査の結果について」という報告書(PDF)です。

 これによれば、給食費の未納があった学校は全体の43.6パーセントですが、児童生徒数で考えると約1パーセント、金額で考えれば0.5パーセントに過ぎないことがわかります。

 また、給食費の未納に関する調査はこれが初めてですので、増加したと言うことは一概には言えないのです(減少したとも言えないのですが)。

 さらに、(朝日から産経まで上のデータをほとんど無視したにもかかわらず、こちらは大々的に喧伝されたのですが)「学校給食費の未納に関する学校の認識」という設問では、確かにこれについて「保護者としての責任感や規範意識」が原因であるとしている関係者が実に6割に達していることがわかります。然るにこの設問は、この項目以外に「保護者の経済的な問題」しかまともな回答がない(あと「その他」)のと、これは関係者に対する意識調査に過ぎないので、《「親のモラルの低下」が主因》と決めつけることは、極めて難しいと思われます。

 マスコミ(特にこの「問題」を煽り続けた読売や産経)においては、おおよそ極端だとすぐにわかるような事例しか出てこないと思うのですが、既に客観的な指標は存在するのですから、まず上の資料をご覧になることをおすすめします。また、少数の極端な事例によって世論や政策が決定されることの危険を、このブログの「「想像の~」という問題」という記事で採り上げていますので、ご覧下さい。

 (参考:女子リベ  安原宏美--編集者のブログ「モラルが下がって給食費未納」って「神話」じゃないの?

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2007年10月26日 (金)

全国学力テストから遠く離れて

 巷は全国学力テストの話題で持ちきりだと思うが、そこから遠く離れて、以下の話題を採り上げる。というか、またアンケート調査のデータの歪曲を見つけた。

<読書世論調査>8割が「日本語力不足」(毎日新聞/Yahoo!ニュース)

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 日本語力の不足を感じる理由(複数回答)は、最多は「文章をあまり書かないから」の58%で、次いで「文章を書く時、パソコンや携帯電話に頼っているから」42%。10代後半から30代までは「パソコンや携帯電話に頼っているから」が55~61%で最も多く、パソコンや携帯電話の普及が、とりわけ若い人たちの日本語力に影響していることが読み取れる。

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 おいおい。《パソコンや携帯電話の普及が、とりわけ若い人たちの日本語力に影響していることが読み取れる》なんて読み取れないだろう。《パソコンや携帯電話の普及が》言語能力を低下させているという言説が《とりわけ若い人たちの日本語力に影響していることが読み取れる》なら正しいけど。要するに、この記述って、例えば「給食費未納があった学校の教員が、その原因を親のモラルの低下であると考えた人が多かったから、未納の増加は親のモラルの低下が原因である」と語っているようなもの。要するに、「当事者がこういっているのだから正しい」論法である。しかし、その当事者側が誤解しているケースも少なくないし、もっと客観的な調査が必要である。

 さらに、毎日jpのほうにはこんな記事があった。「第61回読書世論調査:止まらない雑誌離れ/インターネットを優先(その2止)」。

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 ■若者の日本語力低下

 ◇75%「好ましくない」

 漢字の読み書きや言葉の言い回しなど若者の日本語の力が低下していると指摘を受けていることについて「好ましくない」と答えた人は75%にのぼった。「別に構わない」は17%、「低下しているとは思わない」は5%。「好ましくない」との回答は女性(77%)が男性(72%)を上回り、女性の方が若者の日本語力の低下を懸念していた。年代別では、40代80%、50代79%が「好ましくない」と感じており、教育期にある子供を持つ親たちの危機感がより強いようだ。

 「好ましくない」と回答した人に理由を聞くと、「日本人の知的水準が下がる」26%、「国語文化が継承されない」25%の二つで過半数を占めた。そのほかは▽若者の感情・思考が単純化する18%▽若者が十分に自己表現できない16%▽上の世代と意思疎通が円滑に進まない13%。年代別にみると10代後半から30代は「日本人の知的水準が下がる」が最も多かったのに対し、40代以上は「国語文化が継承されない」が最多だった。

 「別に構わない」と答えた人の理由は、「言葉は生きもので、上の世代と比べるのはおかしい」と「年を重ねるうちに力がつけばよい」がともに37%で1位。年代別では10代後半から40代は「上の世代と比べるのはおかしい」、50代以上は「年を重ねるうちに力がつけばよい」が最多だった。

 また、活字離れが若者の日本語力低下につながっているかの質問では、「そう思う」は77%、「そう思わない」は19%。年代別では30~60代で「そう思う」が約8割と高く、若者の日本語力低下を好ましくないと思う年代と重なる傾向を示した。

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 こんなことを聞いて、どうなるんでしょうね。というよりも、主としてマスコミの調査能力の低さ(犯罪統計を読まないなど)のほうは問題にされないんだろうか(笑)。

 〈補記〉

 ダメな調査の例としてもう一つ。既に「二次元至上主義!」などで突っ込まれているが、内閣府の「有害情報に関する特別世論調査」(PDF)、その資料7より。

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現行の法令では、実在しない子どもに対する性行為等を描いた漫画(コミック)や絵(イラスト)などは、規制の対象となっていません。
これに関して、実在しない子どもを描くのであれば、他に害を及ぼさないため、現行のままで問題ないとの意見があります。
一方、これらコミック等が児童を性の対象とする風潮や児童に対する性的犯罪を助長するとの意見もあり、実在する子どもの写真やDVDなどと同様に規制の対象とすべきとの意見があります。
このような漫画(コミック)や絵(イラスト)を規制の対象とすることについてどう思いますか。

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 公正を保つのであれば、本当に子供を狙った犯罪が増えているのか、ということくらい示すべきだろう。ちなみに、0~9歳の加害に基づく傷害・死亡人員は、人口動態統計によれば、ここ20年ほどで大体半分くらいに減っている。幼女に対するレイプも、統計によれば、減少しているようだ(「少年犯罪データベース」より)。

 上の文章と、回答を見る限りでは、最初から「規制」ありきで設定された設問としか思えないな。

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2007年10月15日 (月)

今度は毎日新聞が…

 「もう少し疑いましょう」で採り上げた、産経新聞が報じた「STOP!STDを考える会」の調査について、今度は毎日新聞が報じた。

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 医療関係者らによる性感染症(STD)啓発団体「STOP!STDを考える会」が東京・渋谷で遊ぶ10代後半の若者にアンケートしたところ、17人に1人がSTDにかかった経験があると回答した。同会は「性行動が極めて活発と思われるグループのデータだが、性感染症の知識は不十分で、知らないうちに病気を広めている危険がある」と分析している。

 調査は8月10~16日、路上などで高校生と10代の卒業生に用紙に記入してもらい、466人分が集まった。性体験があったのは68%で、5.8%が「性感染症にかかったことがある」と答えた。

 また、性関係の相手の数は平均で5.2人だったが、感染経験者に限ると平均37人と7倍以上多かった。
 (性感染症:東京・渋谷の10代後半、17人に1人経験あり(毎日新聞)

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 しかし、これも産経と同様、内容を精査しない、いわば「大本営発表」である。というのも、見出しでは「東京・渋谷の10代後半、17人に1人経験あり」となっているものの、渋谷にいる10代後半の人たちがなぜ《性行動が極めて活発と思われるグループ》と見なすことができるのだろうか。この記事を見る限りでは、アンケートに答えた人全員が《性行動が極めて活発と思われるグループ》と見なされているように思える。

 然るに、《性行動が極めて活発と思われるグループ》について検討したいのであれば、例えば性関係がサンプルの中で、例えば平均や中央値より大きい層とそうでない層を比較するか、あるいは上位数パーセント(4分の1くらい?)である層と下位である層(上位と同じ割合)を比較すべきだろう。いずれにせよ、サンプルが極めて偏っているのはいうまでもなく、こんな調査をなんの疑いもなく報ずる新聞の罪は大きい。何が新聞週間なんだろうね。

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2007年10月11日 (木)

もう少し疑いましょう

 「黙然日記」や「Imaginary Lines」あたりが好んで採り上げそうなネタだと思うのだが(笑。ちなみに私は両方のブログを愛読しています。あと、後者では「性差を超えたエンタメ人気 社会モラル崩壊の象徴」なんて記事が採り上げられている)、まだ採り上げていなかったので私が採り上げる(ちなみにこの記事、「ニコニコ動画」のニュース欄で「高3、71%が経験者」という見出しだった。この記事を読んだあとなので、相当に歪めているなあ、と思った)。

高校3年生 71%が性経験あり 民間団体調査(産経新聞)

 この記事、タイトルだけ一見してみると、またぞろ保守派の皆々様がお嘆きになりそうな記事だと思われるかもしれない。ところが、以下を見て欲しい。

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 若者の街、東京・渋谷駅周辺に集まる高校1年生の35%、高校3年生では71%に性経験があるなどとする調査結果を、性感染症予防の啓発活動を行っている民間団体「STOP!STDを考える会」がまとめ、10日発表した。(略)

 8月に渋谷駅周辺の街頭やクラブで15歳以上20歳未満の男女にアンケートを実施、466人から回答を得た。

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 もしこれが本紙の記事であれば《若者の街、東京・渋谷》なんて表現などどうかと思うのだが(まあ産経は過去に「ヲタ」なる表現を本紙で使ったという伝説があるけれども)、それはさておき、この調査、明らかに地点に偏りがある。しかも、《渋谷駅周辺の街頭やクラブで15歳以上20歳未満の男女にアンケートを実施》というけれども、単なる聞き取りである可能性は非常に高い(ちなみにアンケート調査といっても、配票調査法、集団記入法などのやり方がある)。

 要するに、この調査、渋谷という地点に限って採り上げるならともかく(それでもかなり怪しいのだが)、全国の高校生一般に適用するのは大変難しいものなのである。まあ、産経の青少年報道のクオリティは「熟知している」(笑)ので(青少年がらみではないけれども、教育の記事でいわゆる「インテリジェント・デザイン」を宣伝した経験もあるし)、まあ「また産経か」ですますことも、可能なのかもしれないけど。

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