「セカンドライフ」の現実と幻想
「冬枯れの街」の「…いい、私が作る!これ以上ダメージ受けたくない。」で知ったのだが、野村総合研究所が、インターネット上のコミュニティである「セカンドライフ」についての調査結果を発表した。おもしろかったのでメモする。
1. 「セカンドライフ」は日本に定着しているか?
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NRI(筆者注:野村総研)は、日本在住のインターネット利用者約10万人に対して、「セカンドライフ」の利用経験などに関する事前調査を実施しました。その結果、「セカンドライフ」を「知っている」と答えた回答者は53.6%、「利用している(ログインしたことがある)」という回答者は2.4%でした。
この2.4%の回答者の中から1,000人を無作為抽出して「セカンドライフ」利用について尋ねたところ、「面白かった。今後も継続的に利用したい」と感じている人は27.1%にとどまり、利用の定着までには至っていないと考えられます。
(野村総合研究所「三次元仮想世界「セカンドライフ」の日米における利用実態を調査」。以下、特に断りがなければ引用は全てここから)
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要するに、「セカンドライフ」に《「利用している(ログインしたことがある)」という回答者は2.4%》で、さらに《「面白かった。今後も継続的に利用したい」と感じている人は27.1%にとどま》っているということは、全体で「セカンドライフ」について《「面白かった。今後も継続的に利用したい」と感じている人》は0.024かける0.271=0.006504、つまり0.65パーセントに過ぎないということになる。
2. 「セカンドライフ」はどのように利用されているか
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米国の利用者が、「セカンドライフ」の魅力として挙げた上位3項目は「自分のアバターを作って着飾れること」「他の人とテキストチャットを楽しめること」「モノ(オブジェクトやスクリプト)を作れること」であり、米国では創造・所有やコミュニケーションの場として「セカンドライフ」を活用されている傾向がみられます。一方、日本の利用者は「企業の島や建物を見られること」「自分のアバターを作って着飾れること」「イベントやテーマパークなどで遊べること」が多く、米国の利用者と比べて「セカンドライフ」で得られる体験に魅力を感じていることが分かりました。
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要するに日本人利用者は、米国人のように「セカンドライフ」を金儲けやクリエイティブな活動の手段として考えているのではなく、ただ単にその中で「遊べる」ことを重視しているように見て取れるようだ。そうすると、我が国にとっての「セカンドライフ」は、mixiなどのSNSとほぼ同類なのかもしれない。
そうすると、「Voice」(PHP研究所)平成19年9月号での石原慎太郎と宮台真司の対談における宮台の発言はかなり現実離れしたもの、ということになる。
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宮台 彼らは「セカンドライフ」上では活動的なのです。生活保護を受けながら「セカンドライフ」で億万長者として暮らす者もいます。二十四時間中睡眠に五時間、食事に一時間使い、残りを「セカンドライフ」内の経済活動に充てて専用通貨を稼ぎ、換金してカップラーメンを買ってすするという生活です。
石原 しかし、バーチャルな世界で味わう満足感は結局、いつか崩れて消えてしまうでしょう。
宮台 それでもこれからはそういう人が増えます。そうした流れを認識することがニート問題に近づく一歩です。ニートには、「現実に怯えて前に踏み出せない者」と、「わざわざ訓練して社会に出ることに意味を認めない者」が含まれます。前者は、経験値を高める訓練で不安を克服すればOKです。後者は「自分が自分であるために社会や他者が必要」と感じないように育ち上がっており、簡単に引き戻せません。愛国教育や道徳教育が足りないのでもない。国にコミットする以前に、社会にコミットしないのですから。
(石原慎太郎、宮台真司「「守るべき日本」とは何か」(「Voice」2007年9月号、pp.80-89、PHP研究所)pp.85、2007年8月)
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私はこの発言が収録されている対談を批判したとき、「そんなこと本当にあるのかよ」と軽く突っ込みを入れる程度だったが、これにより統計的にも疑念が提示できるようになった、ということになる(のかな)。
野村総研の「セカンドライフ」研究(というよりこの発表)で不足しているのは、どういう層が「セカンドライフ」に参画し、またどういう社会的機能が形成されているか、ということであるが、少なくともインターネット上のコミュニティについては、池田謙一(編著)『インターネット・コミュニティと日常世界』(誠信書房、2005年10月)や宮田加久子『きずなをつなぐメディア』(NTT出版、2005年3月)などで研究がいくらか為されている。
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NRIでは今後も、「セカンドライフ」に代表される仮想世界の技術および利用動向を調査し、技術開発や仮想世界を活用する企業への提言に役立てていきます。なお、今回の調査の詳しい分析結果は、2008年春に単行本「仮想世界ロードマップ―これから社会はどう変わるのか」(仮)として、東洋経済新報社より発行する予定です。
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楽しみにしています。なお、野村総研は、最近も『大衆化するIT消費』(東洋経済新報社、2007年10月)という本を出した。これもチェックしておく必要があるかな。
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