カテゴリー「366.1 労働政策・労働法制」の記事

2009年8月24日 (月)

選挙「後」の青少年関連政策を考えるための5冊+α

 ああ、本来であれば1週間ほど前に、選挙の政策を考えるための新書・文庫20冊程度を紹介するという記事を本家のほうで書こうと思っていたのだが、諸般の事情によりできなかった(苦笑)。というわけで、ここでは、選挙の「後」で、特に青少年関連の政策(教育、雇用、労働中心)を考える上での本を採り上げてみることとする。

 というのも、マスコミ報道なりマニフェストなり、あるいは(労働や経済などの)専門家のブログなどを読んだりすると、自民党にしても民主党にしても、まともなブレインを立てて政策や政権公約を構築したという形跡がどうにも見あたらないからである。これではまともな政策が打ち立てられる可能性は低いし、ましてや票田にならない(とされている)若年層、子供関連など絶望的というほかない。とはいえこのような状況を変える上で、若い世代に投票に行け、と(半ば脅しの意味を込めて)言うのは得策ではないと私は考える。第一にそもそも人口が少ないのと、第二に次世代のための政策が世代間のパワーゲームで決まってしまうことに対する危惧である。

 通俗的な青少年言説、あるいは政治の上での青少年問題という枠組みは、特に教育や雇用、労働の問題が経済や法律や制度の問題であることから逃げるための口実になっているわけで、従って投票者としての我々が考えるべきことは、そのような「青少年問題」という枠組みを外してものを考える、ということにつきる。今回はそのためにたぶん必要となる10冊くらいを、まあ駆け足で紹介することとする。

 ・後藤和智『「若者論」を疑え! 』(宝島社新書)
 いきなり拙著か。しかし基礎的なデータとかはここに十分あると思います。
 ・苅谷剛彦『教育と平等』(中公新書)
 この秋から米国に旅立つ著者の置き土産みたいなもの。教育の地域間格差の解消、平等化とはどういうものだったか。
 ・濱口桂一郎『新しい労働社会 』(岩波新書)
 労働環境に関する制度、及び法律的問題を考える上での基礎的書物であり、なおかつ現時点で最高の書物。
 ・田中秀臣『雇用大崩壊 』(NHK出版生活人新書)
 こちらは経済的問題を考える上での資料。ちなみに田中は最近のブログのエントリーで《各政党とも「都市部の貧しい若者(10~30代)は無視してもかまわない」と思っているからである。それに尽きる。》と書いているけれども、まあ近年の「景気刺激策」なるものを見ているとそういう考えに至るのも非常によくわかる。
 ・山野良一『子どもの最貧国・日本 』(光文社新書)
 政府による所得移転の前と後では後のほうが貧困率が高くなってしまう我が国の再配分政策や、主要先進国に比べて低すぎる家族・教育関連支出の対GDP比など、子供や家族政策を考える上での材料が満載。

 ・次点
 「実存的解決」だとか「革命」とか「精神的貧困の解消」だとかと比べていまいち人気がないのが「既存の学術的手法や法律の活用」。少なくとも経済問題や労働問題の解決に関してはこれより効果的なものはないと思うのだが。これも精神の貧困というものだろうか。なおおすすめの書籍としては、経済なら飯田泰之ほか『経済成長って何で必要なんだろう? 』(光文社)、労働法なら今野晴貴『マジで使える労働法 』(イースト・プレス)あたりが適任かな。

 あと、飯田といったら、雨宮処凜との共著『脱貧困の経済学 』(自由国民社)は、少なくとも『経済成長~』の出版記念トークイヴェントの内容を聞いた限りではかなり期待できる内容である。

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2007年12月 4日 (火)

奉祝――「私のしごと館」廃止

「私のしごと館」廃止 行革相明言 精華・木津川、年20億円赤字(Yahoo!/京都新聞)

 「労働政策研究・研修機構」については民営化でもいいから何とか存続させてくれ(少なくとも今のようにその研究成果を公開したままの状態にしてくれ)、と思っている私だけれども、こちらについては大歓迎だ。

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 「私のしごと館」は、関西文化学術研究都市の中核エリア、精華・西木津地区の約8万平方メートルの敷地にあり、3階建て延べ床面積3万5000平方メートルの巨大施設。児童、生徒をはじめ若年層のキャリア教育を目的に、雇用・能力開発機構が約580億円を投じて開設、2003年3月にオープンした。

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 それくらいの金を投じる暇があったらまず大企業などの法令無視をどうにかしろよ、と言いたいけれども、この施設に代表されるような「キャリア教育」(笑)政策が行き詰まっていることを素直に認めるべきだろう。

 この施設については、保坂展人ほか『官の錬金術』(WAVE出版)に詳しいので参照されたし。

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2007年11月15日 (木)

「労働政策研究・研修機構」廃止に反対する

 「吐息の日々~労働日誌~」の「労働政策研究・研修機構の存続を望む」によれば、独立行政法人の再編の煽りで、「労働政策研究・研修機構」(JILPT)を廃止する動きがあるらしい。

 このような動きには断固として反対する。というのも、同機構は、少なくとも労働に関する研究については、その視点の広さや、あるいは統計をふんだんに用いた研究、さらには種々の労働研究者の育成など、いろいろな分野で活躍しており、なおかつ研究のコンテンツを書籍やインターネット上で公開している(「日本労働研究雑誌」などは1年以上前のものはネットで閲覧できる)。私も『「ニート」って言うな!』やブログを書くときにも、この機構の書物や論文を参考にしたことがいくらかある。

 まあこの機構の本の中には、どうしても政府寄りとしか言えないような報告もないわけでもないけれども、とにかく資料的な価値の高い本を多く出しているのである。だからこそ私はこの機構の存続を要望している。

 ちなみに同機構について、森永卓郎など、数人の「有識者」が意見を表明している。その中で、森永はこう述べる。

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 そのなかで、いたずらに雇用対策を行うことは、財政の不効率な支出に直結する。例えば、フリーターやニートといった新しい階層が社会問題化したときに、彼らがどのような属性や意識を持っており、どのような対策を講じれば就業できるのかを知らずに、雇用対策予算を編成しても、ほとんど意味はない。しかし、有効な雇用対策を検討するためには、フリーターやニートの実態にとどまらず、これまで行われてきた類似の雇用対策の費用と効果、海外での雇用対策の状況など、労働政策全般にわたる高度な知見が必要なのだ。

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 まさに正論なのだが、問題はむしろこの機構をはじめとして、いろいろなところの豊富な研究を政府(省庁の他、人間力運動、教育再生会議など…)が積極的に活用しないまま、思いこみだけで変な精神論に基づく政策ばかり推し進めてきたことではないか。そして果たしてどれほどの人たちが、この機構などの研究について熟知しているか。私がJILPTに足りないと思っているものは、むしろ一般向けのアピールではないかと思う(せいぜい小杉礼子が新聞記事にいくつかコメントをしたり、あるいはコラムを書いているだけでは?)。本もたいてい版元が勁草書房で、一般向けに対する供給(新書など)をそれほどしてこなかったというのも問題だろう。それ以外は特に問題はないと思う。

 ちなみにこのような動きに対して、研究者が立ち上がったらしい。とはいえ、その元締めが玄田有史なのが少々とまどってしまうけれども(少なくとも私は、玄田については、誤った「ニート」概念を広めたものの一人としての責任は負うべきだと思っている)、今回ばかりは賛同せざるを得ない。というわけで、協力してくださる方は、以下のフォームから署名をお願いします。
 https://fs222.formasp.jp/q427/form1/

 以下、趣旨文を引用する。

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JILPT廃止に反対する要望書へのご賛同署名及び転送のお願い
ご存じのとおり、労働政策研究・研修機構(JILPT)の廃止がいくつかのマスコミで報道されるなど、その存続が厳しい情勢となってきました。

JILPTは、労働政策の立案評価のみならず、公的な労働研究活動の拠点として、今後も重要な役割を果たすべきと考えます。JILPTのホームページでも機構の存在意義について有識者コメントのシリーズが始まりました。

http://www.jil.go.jp/seisaku/index.htm

ついては、JILPTが日本で唯一の労働政策専門研究機関として、さらに民間シンクタンクおよび大学等とも異なる特有な機能を有する機関として、研究調査機能を向上しつつ、存続するよう求める要望文を、複数の呼びかけ人とともに作成いたしました。

要望文の内容については、添付ファイルをご覧ください。同一の内容(英文も含む)は、本メールの最後にも付しました。

本要望文は、本年11月13日(火)に、厚生労働省政策統括官を通じて厚生労働大臣に提出致しました。また同一の要望文を行政改革担当大臣ならびに行政減量・効率化有識者会議にも配達証明付き書留郵便で郵送しました。

要望文は、出来るだけ多くのご賛同の署名を集めた上で、機構の存廃の決定にかかわる関係方面に広く提出することを考えております。

そこで要望文にご賛同いただける方は、次の署名用のホームページをお開きいただき、お名前とご所属・肩書き等をご記入いただければ幸いです。併せて研究機関としてのJILPTに関する改善提案(最大300字程度)もご自由にご記入ください。署名いただいた情報につきましては個人情報に十分配慮した取り扱いを致しますのでご安心ください。

https://fs222.formasp.jp/q427/form1/

また本趣旨にご賛同いただけそうな方に、本メールと要望文の添付ファイルを転送いただけると幸いです。署名は、狭く研究者のみに限定せず、要望の趣旨にご賛同いただけるすべての方々にお願い出来ましたら、ありがたく思います。

尚、多くの方にご転送をお願いしているため、本メールが複数回お手元に届いていることも考えられます。その際は、なにとぞご容赦ください。

以上、ご検討のほど、よろしくお願い申し上げます。ご不明な点などにつきましては、お手数ですが下記までご連絡ください。

独立行政法人労働政策研究・研修機構の存続を求める研究者の会(事務局)
東京大学社会科学研究所 〒113-0033 文京区本郷7-3-1
玄田有史(げんだ・ゆうじ)
(お問い合わせ)genda@iss.u-tokyo.ac.jp

厚生労働大臣 舛添要一殿

要望文

 独立行政法人労働政策研究・研修機構(以下「機構」)の廃止を検討していることが、いくつかのマスコミで報道されています。 労働をめぐる問題が重要度を増し、社会的関心を集めている現在、我が国で唯一の労働政策を専門とした調査研究機関である機構を廃止することは、日本の労働問題を正確に把握し、政策面で適切に対応する上で多大な不利益をもたらすと考えます。

 機構の廃止は、労働政策の立案や評価に欠かせない、公的かつ中立的な立場からの内外労働情勢の把握を困難にすることにつながります。さらに機構の廃止は、学術研究の成果を踏まえた上で労働政策を論じる学問的観点の重要性を蔑ろにする傾向を生むことが懸念されます。

 機構は、民間シンクタンクと異なる基礎的かつ継続的な調査機関であり、また大学等とも異なる実践的な政策の立案と評価を主眼とした研究機関です。その特有な機能は、労働政策の当面の課題についてのみならず中長期的課題に取り組むために必要なものです。

 機構が、我が国の労働政策の立案及びその効果的かつ効率的な推進に寄与し、もって労働者の福祉の増進と経済の発展に資することを目的とした独立の調査研究機関として、その機能をいっそう向上させつつ、存続することを強く求めます。

2007年11月13日

独立行政法人労働政策研究・研修機構の存続を求める研究者の会

呼びかけ人(順不同)2007年11月12日現在:
仁田道夫(東京大学社会科学研究所教授)、佐藤博樹(東京大学社会科学研究所教授)、玄田有史(東京大学社会科学研究所教授)、清家篤(慶應義塾大学商学部教授)、中村圭介(東京大学社会科学研究所教授)、山川隆一(慶應義塾大学法科大学院教授)、守島基博(一橋大学大学院商学研究科教授)、荒木尚志(東京大学大学院法学政治学研究科教授)、大竹文雄(大阪大学社会経済研究所教授)、中村二朗(日本大学大学院総合科学研究科教授)、石田浩(東京大学社会科学研究所教授)、藤村博之(法政大学経営学大学院教授)、ロナルド・ドーア(ロンドン大学経済パーフォーマンス研究所名誉研究員)、島田晴雄(千葉商科大学学長)、佐藤厚(同志社大学大学院総合政策科学研究科教授)、諏訪康雄(法政大学大学院政策科学研究科教授)、尾高煌之助(一橋大学・法政大学名誉教授)、武石恵美子(法政大学キャリアデザイン学部教授)、大沢真知子(日本女子大学人間社会学部教授)、末廣啓子(宇都宮大学キャリア教育・就職支援センター教授)、石田光男(同志社大学社会学部教授)、トーマス・コーハン(マサチューセッツ工科大学スローン経営大学院教授)、樋口美雄(慶應義塾大学商学部教授)、荻野勝彦(トヨタ自動車(株)人事部担当部長)、メアリー・ブリントン(ハーヴァード大学ライシャワー研究所教授)、今野浩一郎(学習院大学経済学部教授)、脇坂明(学習院大学経済学部教授)、太田聰一(慶應義塾大学経済学部教授)、永瀬伸子(お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科教授)、中田喜文(同志社大学技術・企業・国際競争力センター教授)、大橋勇雄(一橋大学大学院経済学研究科教授)、小池和男(法政大学名誉教授)、猪木武徳(国際日本文化研究センター教授)、三谷直紀(神戸大学大学院経済学研究科教授)、ダニエル・フット(東京大学大学院法学政治学研究科教授)、佐藤嘉倫(東北大学大学院文学研究科教授)、耳塚寛明(お茶ノの水女子大学人間文化創成科学研究科教授)、冨田安信(同志社大学社会学部教授)、藤田英典(国際基督教大学大学院教育学研究科教授)、白波瀬佐和子(東京大学大学院人文社会系研究科准教授)、広田照幸(日本大学文理学部教授)、岩村正彦(東京大学大学院法学政治学研究科教授)、サンフォード・ジャコビー(UCLAアンダーソンマネージメントスクール教授)、苅谷剛彦(東京大学大学院教育学研究科教授)、篠塚英子(お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科教授)

(お問い合わせ・連絡先事務局)
独立行政法人労働政策研究・研究機構の存続を求める研究者の会
〒113-0033 東京都文京区本郷7-3-1
東京大学社会科学研究所 玄田有史
(電話&ファックス)03(5841)4954
(電子メール)genda@iss.u-tokyo.ac.jp

Mr. Yoichi Masuzoe
Minister of Health, Labor and Welfare

We have learned from reports by media that Japanese Government is considering abolition of the Japan Institute of Labor Policy and Training.

As issues related to labor and employment become prominent and socia l concern for those issues dramatically increase, abolition of the only research institution specializing labor policy issues in Japan cannot be justified by any means. If JILPT is abolished, the Government will lose one of the most important channels to information and knowledge based on objective research regarding labor policy planning and evaluation. We are also very concerned that abolition of JILPT signifies a tendency in policy planning and social debate on labor issues to neglect such objective and academic research.

We would like to ask Ministry of Health, Labor, and Welfare that it acts not to abolish but to strengthen research capacity of JILPT so that the Institute can better serve for effective and efficient labor policy planning and implementation. We believe JILPT can greatly contribute to the welfare of working people and economic prosperity as the only expert think tank in labor fields.

Concerned Labor and Employment Research Scholars Who Oppose
Abolition of Japan Institute of Labor Policy and Training

November 13,2007

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2007年9月24日 (月)

「頼りになるやつが、できた。」

 「政府は大変な錯誤をしでかしていきました@「ニート“対策”」」の続き。NPO「POSSE」が「LAW! DO! キャンペーン」なるものを始めた。この試みは、もっと広がって然るべきものだろう。趣旨文には、以下のようにある。

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 現在秋期国会では、労働分野についての新たな法制度について議論がなされています。しかし、若者の感覚からは、違和感が感じられます。なぜなら今日の日本社会では、そもそも法律そのものが守られていないからです。私たちは、なによりもまず、既存の法令の遵守を実現するための施策を求めます。具体的には労働基準監督制度の強化や、その他の制度活用のサポートなど、法の適正化を実現するためのあらゆる方法がとられるべきです。その先にこそ、法改正の議論の意味があります。

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 このような認識を、我が国における若年労働運動の中核を担う団体の一つである「POSSE」が打ち出したことは、極めて高く評価されて然るべきものである。そもそも我が国における若年労働に関する言説は、労働条件の問題として捉えるよりも、若年層の「働くこと」に対する意識が変わったことにある、という視点が強く、現在でもその傾向は温存されている(ちょうど先日出た、三浦展の『下流社会 第2章』(光文社新書)の第3章や6章に書かれていることはまさにその典型だ)。

 然るに真に問題にすべきは、若年労働の現場、なかんずく末端の現場において、各種の労働法が遵守されておらず、またそのような無法状況を財界は推し進め、脱法を合法にするために法改正まで推進することである。そしてこのような行為が跋扈する要因の一つとして、若年層に対する言われなきバッシングが関わっているのは言うまでもないだろう。

 だからこそ若年労働の当事者、あるいはこのような運動に関わるものとしては、まず既存の労働法を遵守させることを徹底しなければならない。既存の労働法制が満足されないまま、「新しい正社員像を描くべき」だとか、あるいは「今の「格差社会」はかつての「階層社会」「階級社会」と本質的に違う」などといっても、所詮は絵空事に過ぎない。

 ちなみにこの記事のタイトルは、その「POSSE」が近いうちに出版する『しごとダイアリー(労働手帳)』のキャッチフレーズである。これは、トラブルに対する対処法や、相談窓口の一覧、さらに使い方によっては強力な法的証拠にもなるという極めて便利なものになるようだ。

 違法状態が異常であるように経営者側や財界に正しく認知させる必要があるし、またそのような状況を放置させてきた側にも責任を追求して然るべきである。この運動が、その発着点であることを、私は願ってやまない。

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