カテゴリー「375.8 国語科教育」の記事

2007年10月26日 (金)

全国学力テストから遠く離れて

 巷は全国学力テストの話題で持ちきりだと思うが、そこから遠く離れて、以下の話題を採り上げる。というか、またアンケート調査のデータの歪曲を見つけた。

<読書世論調査>8割が「日本語力不足」(毎日新聞/Yahoo!ニュース)

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 日本語力の不足を感じる理由(複数回答)は、最多は「文章をあまり書かないから」の58%で、次いで「文章を書く時、パソコンや携帯電話に頼っているから」42%。10代後半から30代までは「パソコンや携帯電話に頼っているから」が55~61%で最も多く、パソコンや携帯電話の普及が、とりわけ若い人たちの日本語力に影響していることが読み取れる。

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 おいおい。《パソコンや携帯電話の普及が、とりわけ若い人たちの日本語力に影響していることが読み取れる》なんて読み取れないだろう。《パソコンや携帯電話の普及が》言語能力を低下させているという言説が《とりわけ若い人たちの日本語力に影響していることが読み取れる》なら正しいけど。要するに、この記述って、例えば「給食費未納があった学校の教員が、その原因を親のモラルの低下であると考えた人が多かったから、未納の増加は親のモラルの低下が原因である」と語っているようなもの。要するに、「当事者がこういっているのだから正しい」論法である。しかし、その当事者側が誤解しているケースも少なくないし、もっと客観的な調査が必要である。

 さらに、毎日jpのほうにはこんな記事があった。「第61回読書世論調査:止まらない雑誌離れ/インターネットを優先(その2止)」。

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 ■若者の日本語力低下

 ◇75%「好ましくない」

 漢字の読み書きや言葉の言い回しなど若者の日本語の力が低下していると指摘を受けていることについて「好ましくない」と答えた人は75%にのぼった。「別に構わない」は17%、「低下しているとは思わない」は5%。「好ましくない」との回答は女性(77%)が男性(72%)を上回り、女性の方が若者の日本語力の低下を懸念していた。年代別では、40代80%、50代79%が「好ましくない」と感じており、教育期にある子供を持つ親たちの危機感がより強いようだ。

 「好ましくない」と回答した人に理由を聞くと、「日本人の知的水準が下がる」26%、「国語文化が継承されない」25%の二つで過半数を占めた。そのほかは▽若者の感情・思考が単純化する18%▽若者が十分に自己表現できない16%▽上の世代と意思疎通が円滑に進まない13%。年代別にみると10代後半から30代は「日本人の知的水準が下がる」が最も多かったのに対し、40代以上は「国語文化が継承されない」が最多だった。

 「別に構わない」と答えた人の理由は、「言葉は生きもので、上の世代と比べるのはおかしい」と「年を重ねるうちに力がつけばよい」がともに37%で1位。年代別では10代後半から40代は「上の世代と比べるのはおかしい」、50代以上は「年を重ねるうちに力がつけばよい」が最多だった。

 また、活字離れが若者の日本語力低下につながっているかの質問では、「そう思う」は77%、「そう思わない」は19%。年代別では30~60代で「そう思う」が約8割と高く、若者の日本語力低下を好ましくないと思う年代と重なる傾向を示した。

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 こんなことを聞いて、どうなるんでしょうね。というよりも、主としてマスコミの調査能力の低さ(犯罪統計を読まないなど)のほうは問題にされないんだろうか(笑)。

 〈補記〉

 ダメな調査の例としてもう一つ。既に「二次元至上主義!」などで突っ込まれているが、内閣府の「有害情報に関する特別世論調査」(PDF)、その資料7より。

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現行の法令では、実在しない子どもに対する性行為等を描いた漫画(コミック)や絵(イラスト)などは、規制の対象となっていません。
これに関して、実在しない子どもを描くのであれば、他に害を及ぼさないため、現行のままで問題ないとの意見があります。
一方、これらコミック等が児童を性の対象とする風潮や児童に対する性的犯罪を助長するとの意見もあり、実在する子どもの写真やDVDなどと同様に規制の対象とすべきとの意見があります。
このような漫画(コミック)や絵(イラスト)を規制の対象とすることについてどう思いますか。

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 公正を保つのであれば、本当に子供を狙った犯罪が増えているのか、ということくらい示すべきだろう。ちなみに、0~9歳の加害に基づく傷害・死亡人員は、人口動態統計によれば、ここ20年ほどで大体半分くらいに減っている。幼女に対するレイプも、統計によれば、減少しているようだ(「少年犯罪データベース」より)。

 上の文章と、回答を見る限りでは、最初から「規制」ありきで設定された設問としか思えないな。

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2007年10月18日 (木)

正気かお前ら…

「活字離れに歯止めを」 言論人らが読書活動を推進(産経新聞)

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 活字離れに歯止めをかけ、日本語に対する理解を深めてもらおうと、文化人や言論人らがこのほど「文字・活字文化推進機構」(会長・福原義春資生堂名誉会長)を設立した。24日に東京都内で設立総会を開く。

 新聞や本を読まない若年層が増えていることから、新聞の閲覧活動を推進したり、古典や近代文学の名作を紹介する「子ども読書マガジン」を発行したりして、新聞閲覧人口や読書人口の底上げを図る。

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 データもなしに通説を語るとは。ちなみにNHKの国民生活時間調査によれば、確かに若年層における「活字を読む時間」は高齢者に比してかなり少ないが、その中から新聞を読む時間を除くと、若年層のほうが多くなるのだが…(パオロ・マッツァリーノ『反社会学講座』第16回)。しかも委員を見る限りでは、やはり肩書きだけすごい人たちばかり集めて、大上段からの、またさしたる根拠に基づかない「説教」に終始するのはほぼ確実かもしれない(財団法人「出版文化産業振興財団」のサイトより。引用に際して、適宜スペースを消去した)。というかここにもいるのか高木剛。やはり連合は本当に協力する気があるのか

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【文字・活字文化推進機構】
代表 福原義春(資生堂名誉会長)
副代表 阿刀田高(作家、日本ペンクラブ会長)

【文字・活字文化推進機構設立世話人会 】
世話人  井上ひさし  作家・劇作家
世話人  大久保浩   (財)日本漢字能力検定協会副理事長
世話人  柿本寿明  (株)日本総合研究所前理事長 
世話人  唐澤祥人  (社)日本医師会会長
世話人  河村建夫  子どもの未来を考える議員連盟会長
世話人  北村正任  (社)日本新聞協会会長
世話人  小峰紀雄  (社)日本書籍出版協会理事長
世話人  たかたかし  (社)日本作詩家協会理事長
世話人  髙木剛    日本労働組合総連合会会長
世話人  田中健五  (社)全国出版協会会長
世話人  中川秀直  活字文化議員連盟会長
世話人  中西敏夫   (社)日本薬剤師会会長
世話人  永井多惠子 日本放送協会副会長
世話人  西室泰三  (社)日本アドバタイザーズ協会理事長
世話人  肥田美代子 (財)出版文化産業振興財団理事長
世話人  細田博之   図書議員連盟会長
世話人  俣木盾夫  (社)日本広告業協会理事長
世話人  松居直    (社)日本国際児童図書評議会会長
世話人  村松邦彦  (社)日本雑誌協会理事長
(氏名50音順)

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 個人的には、こういう「活動」やら「運動」に関わる人こそ、それこそ教育学や社会学の成果に基づいた、まともな青少年言説を読んで欲しいのだが…。そう思わせることが狙いなのであれば、むしろ笑えるけど。

 ついでに委員の一人である肥田美代子は、議員時代は青少年「健全育成」の名目でメディア規制を推進していた(「反ヲタク国会議員リスト」より)。

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2007年10月14日 (日)

もはや小学生の作文

昨日メモした、連合が非正規雇用者対策を前面に押し出したことが日経で社説になっていた(「連合は非正規対策の実行を」H19.10.14)。この社説は、客観的なデータを踏まえつつ、現在の労働運動と非正規雇用者を重用することの問題点に触れた上で、スタンスとしてはとりあえず見守るというものではあるけれども、高く評価していいとは思う。

 それを踏まえて、本日の朝日の社説をご覧いただきたい。

自殺サイト―もはや見過ごせない(朝日新聞、H19.10.14社説)

 すごいな、これ。まるで小学生の作文だよ。「衝撃的」な事件を引き合いに出したあと、《それにしても、ネットを入り口にした事件が広がっており、見過ごせないところまできている》なんて(客観的なデータや正の効用を示さないまま)煽り、以下のように、これまた優等生的な「正義感」を全面的に押し出す。

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 自殺サイトもなくならない。自殺志願者がいっしょに死ぬ相手を募る。「楽に死ねる方法」を教え合う。そうしたサイトが数百あるともいわれ、たびたび集団自殺の引き金になってきた。

 こうした危ういサイトが野放図に広がっていくことは、なんとしても食い止めなくてはならない。

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 読んでいて恥ずかしくなってくるな。あと、《問題のあるサイトや書き込みを事前に取り締まることは技術的に難しいし、もし規制が行き過ぎれば「表現の自由」を侵す恐れがあるからだ》と書いて、対案に配慮したつもりなのが笑える。しかも締めがこれときた。

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 もう一つ、今回の事件で残念でならないことがある。亡くなった女性が自殺を考えたとき、最後に相談した先が男のサイトだったことだ。

 ネット上には、死にたいと思う人の悩みに耳を傾け、生きる気持ちを取り戻す方向へと導いているサイトもある。

 死ぬことを思いとどまらせる窓口を増やし広げることも、危ういサイトの罠(わな)から防ぐ手だてになる。

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 これで終わり。全然結論になっていないような気がするのは私だけか。

 それにしても、朝日の社説って、社内では比較的地位の高い論説委員が書いているんじゃなかったっけ?それでこの程度の「作文」ですか。まあ、今年の成人の日には、なぜか携帯電話になってしまったり、そんな変な(電波な?)社説が結構出てきたりするので、まあ、これも朝日クオリティ、とすますこともできるかもしれないけど(産経の時とほとんど同じ感想だな)。

 でも、社説がこの体たらくでは、高校生に向かって「大学入試に強い朝日新聞」などということは到底できないような気がする。読むとしても、外部の筆者によるコラムを読んだほうがいいのでは?

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