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2005年4月 4日 (月)

2005年1~3月の1冊

 私が2004年12月16日~2005年3月31日に読んだ本に関して、特に印象に残ったものを紹介します。

 1:B・R・アンベードカル、山際素男:訳『ブッダとそのダンマ』光文社新書、2004年8月
 書評:「仏教は〈私〉の中にある
 インドの不可触民に支持されているインド新仏教の火付け役となった仏教の解説書が光文社新書として刊行された。仏教の開祖であるブッダの人生と、そのブッダがいかなる教えを説いてきたか、ということが幅広く書かれており、私のように仏教に明るくない向きでも、ブッダの教えの奥の深さに感銘を受けるのは確実であろう。必読。

 2:芹沢一也『狂気と犯罪』講談社+α新書、2005年1月
 書評:「「狂気」を囲い込む社会
 なぜ我が国は精神病院列島となったか。そのルーツは明治維新以降の近代化にあった。戦前における「狂気」の捉えられ方や司法に介入しようとする精神医学の思惑を検証し、昭和25年の精神衛生法の制定から雪崩を打って精神病国家と化する戦後の我が国を描き出す。その上で本書が導き出す結論とは。大谷昭宏や福島章や森昭雄などの思想的ルーツもわかる優れものだ(笑)。

 3:カール・セーガン、青木薫:訳『人はなぜエセ科学に騙されるのか』新潮文庫、上下巻、2000年11月
 「科学の良心」、カール・セーガンによる遺言的名著。主に米国で蔓延している疑似科学を鋭く批判しつつ、いかにして科学の面白さと感動を後世に伝えているか、ということを全身全霊をかけて論じている。これを読まずして科学哲学と科学倫理を語るなかれ、と言ってもいいほど、科学を志す者にとっては必読の要素が満載である。

 4:潮木守一『世界の大学危機』中公新書、2004年9月
 米国、ドイツ、フランス、英国の大学の歴史を探り、21世紀における我が国の大学のあり方を考える野心的な本。それぞれの国における大学のあり方の変遷を詳しく述べており、大学生も含めて大学に関わっている人は必読の文献。「若者論」にまみれた俗流大学生論を完膚なきまでに打破してくれる底の深さを持っている。

 5:山室信一『キメラ――満洲国の肖像・増補版』中公新書、2004年7月
 書評:「建国のロマンと挫折
 再来年は満洲国建国75年である。満州国建国において当時の日本政府、特に石原莞爾と板垣征四郎の思惑や、建国に向けての世論の盛り上がり、そして建国後の挫折や崩壊までをさまざまな資料を用いて描く。増補版の発行にあたって、満州国の当時から現在に至る意義を架空問答形式で説明した章は特に読み応えがある。原書は吉野作造賞受賞。

 6:笠原嘉『アパシー・シンドローム』岩波現代文庫、2002年12月
 青年期、特に大学生の精神病理について1970年代前半に発表した論文をまとめたもので、特に「スチューデント・アパシー」や「退却神経症」概念に関しては現在の「ひきこもり」の研究にも応用できる部分が多い。研究者としての理念と善意が伝わってくる本である。著者に強い影響を受けた斎藤環氏による解説も必読。『青年期』(中公新書)、本書、そして『退却神経症』(講談社現代新書)は、青年期病理学の古典的名著としてぜひとも目を通しておきたい。

 7:宮台真司『宮台真司interviews』世界書院、2005年2月
 1995年から2004年まで、社会学者・宮台真司氏のインタヴューを時系列で掲載したもの。宮台氏の語り口は時流に合わせて変遷しながらも、その思想的立脚点は一貫して変わってないことに気付かされる。宮台氏の著書を多く読んできた人にも、1冊も読んでいない人にもお勧め。

 8:長谷部恭男『憲法と平和を問いなおす』ちくま新書、2004年4月
 憲法はいかなる理念の下で構築されるべきか。立憲主義という従来の憲法論が見逃してきた極めて重要な論理を概説。民主主義はなぜ必要か、あるいは、国家のために死ぬことが出来るか、など、憲法の倫理の中心となる理念を説明する。主張としては護憲であるが、改憲派も読むべき。憲法に対する見識を磨いてくれる最良の砥石になる。

 9:日垣隆『世間のウソ』新潮新書、2005年1月
 書評:「我々は何に脅えているのか
 巷に溢れる嘘や大げさを仔細に検証する。その確率が交通事故で死亡する確率よりもはるかに低いにもかかわらず「一攫千金」を謳う宝くじの宣伝や、警察が「民事不介入の原則」という虚構の下で児童虐待の検挙に踏み切らなかったことを無視して児童虐待の「急増」を喧伝するマスコミ、さらには「超大国」アメリカの失敗まで、常に疑ってかかった時評集。

 10:池内恵『現代アラブの社会思想』講談社現代新書、2002年1月
 社会が混迷を深めると、決まって人々の不安を煽り立てるものが登場する。本書は1990年代から2001年までにアラブで広まった陰謀論を紹介し、その歴史的、思想的背景を探る。第2回大佛次郎論壇賞受賞。

 11:宮台真司『亜細亜主義の顛末に学べ』実践社、2004年9月
 「力は強いが頭は弱い」、「帝国」アメリカにどう立ち向かうか。これに対抗する理念として、国連中心主義や亜細亜主義を持ち出す。近代的なプロセスを通じていかにアメリカニズムに抗っていくか、という命題を、わかりやすく緻密な論理で説く。

 12:矢田浩『鉄理論=地球と生命の奇跡』講談社現代新書、2005年3月
 鉄で読み解く生命と人類と文明の歴史。地球において高度な生命が発達した理由は鉄イオンによる酸素の固定にあった。鉄が生命に及ぼすさまざまな影響を生物の進化史と絡めて紹介し、さらに製鉄技術と文明の発展や停滞を論じる。地球温暖化の解決策まで議論は及んでおり、大風呂敷を広げているといわれればそれまでだが射程の長い1冊。環境学を志す人は必読。

 13:村田晃嗣『アメリカ外交』講談社現代新書、2005年2月
 米国のイラク占領政策の混迷はどこから来たのか、そしていかなる思想的背景を持っているのか。建国からのアメリカ外交の変遷を歴史的なダイナミズムの上で検証する。日米外交の指針を探る上では必読といえるが、著者のイラク戦争に対する評価は疑問が残る。

 14:橋本健午『有害図書と青少年問題』明石書店、2002年12月
 書評:「「若者論」の不毛なる歴史
 最近になって「有害メディア」規制がまたぞろ加熱したが、このような不毛な議論は戦後の我が国においても過去に何度もあり、そのたびに出版界は自主規制を行なってきた。しかし、それもそろそろ限界が近づいており、国家が本格的な「有害メディア」規制に乗り出すのは意外と近いかもしれない。俗流若者論の不毛なる戦後史を描いた本書は要チェック。

 15:江畑謙介『情報と国家』講談社現代新書、2004年10月
 国家戦略に関して情報は以下に関わるべきか。国家情報機関を持たない我が国が、いかにして国際社会・国際紛争を生き抜くか。情報と国家の関係を論じた本であるが、個人と情報を論じた本としても読むことができ、メディア・リテラシーを高めたい人にもお勧め。

 ワースト:矢幡洋『自分で決められない人たち』中公新書ラクレ、2004年9月
 書評:「俗流若者論スタディーズVol.2 ~精神分析の権力性を自覚せよ~
 著者が独自に編み出した「ネオ依存症」概念をひたすら自らの不快な事例に当てはめるばかりの本。この著者は臨床心理士であるのだが、精神分析の権力性を理解しているのだろうか(詳しくは2と十川幸司『精神分析』(岩波書店/思考のフロンティア)を読んでほしい)。自らの言論に対しても責任をとろうとする姿勢も見られない。なるほど、この著者も「ネオ依存症」だったのか。

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