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2005年6月14日 (火)

俗流若者論ケースファイル28・石堂淑朗

 私はこれまで、俗流若者論の、「今時の若者」の発生した「原因」に関して、その「原因」を何かに特定し、そしてそれに対する悪影響論をしきりに唱える、という態度に対して、まるで陰謀論のようだと指摘してきた(罵ってきた)。しかし、俗流若者論の研究において、まさか本物の陰謀論に出会えるとは思わなかった。

 その主張とは、昨今推し進められている「教育改革」は、なんと我が国を衰亡させるイスラームの陰謀だというのである!もっとも、正確に言えば、現在推し進められている「教育改革」の推進派とイスラームが手を組めば、我が国が滅びる、というものだが(これでも驚愕ものであろう)。提唱しているのは、産経新聞の月刊誌「正論」で「平成餓鬼草子」なる、俗流若者論の頻度がかなり高い連載を執筆している、脚本家で評論家の石堂淑朗氏だ。今回採り上げるのは、石堂氏のこの連載の第88回と89回(「正論」平成17年3月号、4月号)である。

 なにせ石堂氏、第88回の最初からいきなり《9・11の犯人の事を考えているうちに、イスラム人は本質的に全員過激派ではないかとの思いを強く持つようになった》(石堂淑郎[2005a]、以下、断りがないなら同様)と断定してしまっているのだから。まあ、この雑誌のスタンスが明らかに「親米保守」だから、キリスト教がいかなる状況であるか、ということを持ち出すと、キリスト教原理主義者に牛耳られている米国を批判することになりかねないから、キリスト教、あるいは他の宗教との比較をしないのだろう。ちなみに、キリスト教に関しては、最近、ドイツの哲学者、フリードリッヒ・ヴィルヘルム・ニーチェの著書『アンチクリスト』が会話調の現代日本語で講談社から出版されているから、そちらを参照していただきたい(フリードリッヒ・ヴィルヘルム・ニーチェ[2005])。

 さて、石堂氏の問題意識がどのようなものであるかを観察するには、86回の189ページの下段が参考になろう。曰く、《出稼ぎに繰る貧しいフィリピン人には、一日五回跪いてメッカを向いて祈るイスラムもいる。アラーアクバル(偉大なり)である。アラーのほかに神は無し!日本人の医療行為よりお祈りが優先するだろう。ラマダン(断食月)の日だと大変だ。彼らは朝から晩まで食わない。食うと言えばそもそも豚は食わない。民族のアイデンティティーが絡む故にこの種の課題は小直しが利かない》。《日本人の医療行為よりお祈りが優先するだろう》とは、単なる邪推でしかないのだが。ちなみに石堂氏は、190ページの上段で次のように記述する。曰く、《私はその国の基本を知るには先ず小中学校を知ることだろうとずっと思っている。……過激派が理系の勉学にストップを掛けるという話を知った今、……》と。石堂氏は、米国の小中学校でも、キリスト教原理主義に基づき進化論を教えることが禁止されている事例がある、ということをご存知なのだろうか(マーティン・ガードナー[2003])。それだけでなく、キリスト教原理主義による勢力は、進化論だけでなく性教育も禁じている(ジュディス・レヴァイン[2004])。

 そして192ページにおいて、石堂氏はついに本音を語ってしまう。何でも、イスラーム人は理系科目ができないから、過激派なのだそうな。曰く、《自然科学を拒否するとは粗雑で直ぐに切れる頭を作ろうという事に他ならない。思うにイスラム過激派が血の気が多く直ぐに人殺しをやるのは自然科学不勉強の結果なのだ》と。ここまでぶっ飛んだ論理を開陳できるのも、石堂氏がこのようなタコツボ化したオピニオン雑誌の典型とでも言うべきメディアで日々俗流若者論を開陳しているからに違いない…、と、少々口が滑ってしまったことをここで謝罪したいが、少なくとも、石堂氏は、《自然科学不勉強の結果》がいかに《粗雑で直ぐに切れる頭》を作るか、ということに関して論証的な研究を提示すべきであろう(理系科目の成績と犯罪率の相関関係とか)。さもないと、単なるカタルシスのためのレイシズムに過ぎない…、いや、この石堂氏の連載それ自体がカタルシスなのだから、しょうがないか。また口が滑ってしまった。

 それでも、石堂氏のこのような論証立てに対して、今の我が国の(!)マスコミがいかに自然科学や統計学に無知であるか、ということを立証すれば、石堂氏は立ち往生するのではないか。精神科医の斎藤環氏を始め、私を含めて多くの人が批判している、日本大学教授の森昭雄氏の「ゲーム脳」理論が、マスコミや俗流若者論において、その「理論」が科学的に穴だらけであるにもかかわらず、無批判に受け入れられている、という現象を見れば、今の俗流若者論がいかに《自然科学不勉強》であるかがわかるであろう。それ以外にも、マスコミには、初歩的な自然科学や統計学の間違いが数多く存在する。そもそも石堂氏は理系科目ができるのであろうか。一度、学力テストでも受けてみるがいい。そしてその成績を開示してほしい。

 ちなみにこの文章において、石堂氏は京都大学教授の小杉泰氏を批判するのだけれど、この小杉氏に対する批判もまた、石堂氏の妄想から来ているものである、ということを指摘しておきたい。曰く、《過激派が一過激派である所以は物の神を軽視し、神学という名の屁理屈ばかり捏ねている結果である、という風な私の疑問と言うか一般人の疑問に小杉教授は答えるように番組を進めて行くのがマトモナ学者の四つ相撲であろう。同教授もイスラムはプロダクト(物作り)に弱い面があると口走りはするのだが、一番肝心な教育問題には触れようとしないのだ。何か怖がっている、腰が引けている。過激派が怖いか》(192ページ)と。

 石堂氏が石堂氏である所以は論理と実証を軽視し、陰謀論という名の《屁理屈ばかり捏ねている結果である、と言う風な私の疑問と言うか一般人の疑問に》石堂氏は答えるように文章を進めて行くのが《マトモナ》評論家の《四つ相撲であろう》。石堂氏は《一番肝心な》その点には《触れようとしないのだ》。《何か怖がっている、腰が引けている》。産経新聞社や、編集長の大島信三氏が怖いか。

 閑話休題、石堂氏はついに本音を語ってしまう。192ページ下段において石堂氏曰く、《この悲惨な結果(筆者注:我が国において理系科目の成績の低下が進行していること)を齎しつつあるゆとり教育の推進者が自然科学の勉学中止を要求するイスラム過激派と結託したら日本はどうなるかというのが私の不吉な予感なのである》と。ここまで妄想によって自分で自分を盛り上げることのできる石堂氏に、ほとほと感服するほかないのであるが、何も《イスラム過激派》でなくとも、キリスト教の過激派だって自然科学を敵視している。というのは枝葉末節であるが、このような石堂氏の論理が、単なる妄想の産物でしかなく、しかもいわれなきレイシズムにも満ちている、ということについては指摘しなければなるまい。

 それはさておき、ついに石堂氏はこのような陰謀論に走ってしまった、というのは事実なのだから、この次の回を楽しみにすることにしよう。ここから、石堂氏の連載の第89回の検証に映るのだが、ここにおいて石堂氏は数多くの事実誤認をやらかしている。

 例えば、89回の184ページから185ページにかけて、

 そこへ持ってきて駄目押しさながらに大阪寝屋川の小学校で起きた教師刺殺事件の発生である。犯人の少年は中学を止めた後大検に合格、大学受験を狙いつつ、相当程度ゲームに嵌っていたようである。事は旧聞に属しつつあるが長崎で起きた少女による少女の頸部切傷が原因の殺人事件、これはメール交換がついに殺意の増幅を生んだとされており、インターネットによる集団自殺事件は言うに及ばず、飛躍するがライブドアのホリエモン(筆者注:ライブドア社長の堀江貴文氏)が起こした世にも世知辛い株買占め事件など薄ら寒い事件は全てコンピューター無くしては起き得ない種類の事ばかりである(石堂淑朗[2005b]、これ以降は断りがないなら同様)

 と言っている。もちろん、過去にあった《世にも世知辛い事件》を無視して、だ。ここまでマスコミが叫びまくった事例を提示しまくったら、「正論」の読者なら安易にインターネット有害論に引き込めるかもしれないが、皮肉屋の目は騙せない。原因をひとつのものに求めたがるのは、俗流若者論の基本である。ちなみに、いい加減うんざりしているのだが、文中の長崎の事件について、安易に《メール交換がついに殺意の増幅を生んだ》と書いているのだけれども、実際にはチャットである。しかも、このような暴論を振りかざす人たちは往々にして無視するのだが、この事件の犯人と被害者は以前から親密な繋がりがあり、それと思春期の心情に即して考えたほうがよほど説得力がある(ちなみに明治学院大学専任講師の内藤朝雄氏が、この二つの側面からアプローチを行なっている。内藤朝雄[2004])。

 しかも石堂氏は、185ページにおいて相当な事実誤認をやらかしている。曰く、

 パソコンすなわち個人専用コンピューターの本質が使用者の大脳無差別破壊につながる可能性ありということを、発明者はじめ科学者が誰も言わなかったのは不可解千万だと、今頃喚いてももう遅い。パソコン関連の諸活動は儲かるからだ。金が倫理より強いと言うことをライブドアの実践が日々示しつつある。

 拙者、ギター侍じゃ…。

 俺は石堂淑朗。

 このごろの、不可解な、事件はみんな、コンピュータが原因だ。

 コンピュータの使用が、大脳の、破壊を、もたらすのを、どうして誰も指摘しない!!

 …って、言うじゃな~い…。

 でも、そんなことは、とっくに日大の教授・森昭雄が喧伝してますから!!残念!!

 ついでに言うと『ゲーム脳の恐怖』は、第12回日本トンデモ本大賞次点、斬り!!!

 所詮、この世は、お金です。

 倫理は、この世にゃ、無用です。

 問題の多いインターネットを誰も批判しないのも、全ては金のため!

 …って、言うじゃな~い…。

 でも、「理解できない」若年犯罪が起こるたびに巷はインターネット批判で溢れかえり、しかもそのようなインターネット批判にこそまったく倫理が見当たりませんから!!残念!!

 インターネット批判こそ、自称「識者」にとっては最大のドル箱、斬り!!!

 まあ、所詮私の如きが「ギター侍」の真似事をやっても、本家の足下にも及ばないのだが、読者諸賢には、石堂氏の物言いがいかに間違いに満ちているかがお分かりになるだろう。それにしても、前回の冒頭でもそうだったけれども、石堂氏は安易に《本質》という言葉を使いすぎる。所詮この《本質》と言うことが、石堂氏の妄想の産物に過ぎない、ということは、我々は覚えておいて然るべきだろう。

 ついでに言うと石堂氏は188ページ下段において同様の記述を行なっている、ということもここで指摘しておく。

 この文章には、他にも事実誤認、論理飛躍がそこらじゅうに見られるのだが、この石堂氏の連載の89回目において言えることは、石堂氏が我が国をここまで堕落せしめた原因としてコンピュータを「発見」し、それを壊すことこそが我が国を救う近道だ、という安易な「憂国」に走っていること、また、石堂氏が自分の論じたいことに対してろくに取材や調査(新聞記事レヴェルの調査すらも)行なわず、ただ自分の思い込みだけで物事を語り、そこに事実誤認があっても気にしない、という、物書きとして犯してはならない過ちを抱えていることだろう。

 石堂氏は、自分こそが現代の問題の本質を知っている、と思っているだろうが、所詮は自らの妄想の産物でしかない「本質」なるものを無批判に信奉し、それに退治している自分を盛り上げることによってヒロイズムに浸っているしかないのである。しかも、先ほども指摘したとおり、石堂氏は、特定の民族に対する差別や、事実誤認を多く抱えており、もはや言論を生業とするものとしての倫理をかなぐり捨てているのではないか、と思えるほどだ。

 ついでに言っておくと、自分こそが現代の問題の本質を知っている、という叙述方法は、明らかに陰謀論のものである。また、陰謀論は、自分以外を問題の「本質」を知らない者として貶めることによって成り立つため、他者に対する自己の優位性を誇示するための最も簡単な、しかし最も問題の大きい方法でもある。また、陰謀論は、自分を「正義」に設定して、誰か「悪」を決めてしまえば、後はそれに従ってひたすらその「悪」を叩けばいいから、誰だって書けるものである。

 現代の抱える問題は、所詮、コンピュータを破壊しただけで解決できる代物ではないことぐらい、石堂氏には理解していただきたい。自分を「正義」と夢想する石堂氏は、自らの安易な歴史観と問題意識を一度捨て去ってみてはどうか。

 それにしても、石堂氏のこの連載には、俗流若者論がかなり頻繁に出没する。機会があったら、集中的に採り上げることにしよう。

 参考文献・資料
 石堂淑朗[2005a]
 石堂淑朗「褌を締め直そう!」=「正論」2005年3月号/石堂淑朗「平成餓鬼草子」第88回、産経新聞社
 石堂淑朗[2005b]
 石堂淑朗「豆炭心中」=「正論」2005年4月号/石堂淑朗「平成餓鬼草子」第89回、産経新聞社
 マーティン・ガードナー[2003]
 マーティン・ガードナー、市場泰男:訳『奇妙な論理』全2巻、ハヤカワ文庫、2003年1月
 内藤朝雄[2004]
 内藤朝雄「「友だち」の地獄」=「世界」2004年12月号、岩波書店
 フリードリッヒ・ヴィルヘルム・ニーチェ[2005]
 フリードリッヒ・ヴィルヘルム・ニーチェ、適菜収:訳『キリスト教は邪教です!』講談社+α新書、2005年4月
 ジュディス・レヴァイン[2004]
 ジュディス・レヴァイン、藤田真利子:訳『青少年に有害!』河出書房新社、2004年6月

 B・R・アンベードカル、山際素男:訳『ブッダとそのダンマ』光文社新書、2004年8月
 大川玲子『聖典「クルアーン」の思想』講談社現代新書、2004年5月
 酒井啓子『イラク 戦争と占領』岩波新書、2004年1月
 カール・セーガン、青木薫:訳『人はなぜエセ科学に騙されるのか』新潮文庫、2000年11月
 寺島実郎、小杉泰、藤原帰一(編著)『イラク戦争 検証と展望』岩波書店、2003年7月
 日垣隆『世間のウソ』新潮新書、2005年1月
 宮台真司『亜細亜主義の顛末に学べ』実践社、2004年9月

 石川雅彦「アメリカ帝国の神々」=「AERA」2005年4月4日号、朝日新聞社
 諸永裕司「日本人ムスリムの暮らしぶり」=「AERA」2001年7月2日号、朝日新聞社
 山本弘「君にもユダヤ陰謀論が書ける」=と学会(編)『トンデモ本の世界』宝島社文庫、1999年2月

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コメント

 そういえば以前うちのサイトで「ウルトラマンA」のナマハゲ(石堂脚本)のセリフ「行け、スノーギラン!日本古来の神である八百万の神々を拝まずに、クリスマスだのサンタクロースだのと浮かれている者どもを懲らしめてやるのだ!!」と言うのを取り上げた時、(操る超獣がスノーギランと言うカタカナ造語なのを指摘し)「お前(ナマハゲ)は本当に外国が嫌いなのか」とツッコミ入れてきた方がいました(ツッコんでいたのは同時期に山本弘氏のサイト掲示板へも出入りされていた方)。
 これって、石堂はじめとするフジサンケイ系の「親米保守」全員に当てはまるツッコミですなぁ…。

投稿: 克森淳 | 2005年6月14日 (火) 18時52分

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