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2005年7月16日 (土)

俗流若者論ケースファイル38・内山洋紀&福井洋平

 左右に関わらず、俗流若者論であればなんだって斬るという作業を続けている私にとって、左派系のメディアで最近になってよく目にする「若年層が右傾化している」という理論は、はっきり言って左派系の俗流若者論の中ではもっとも厄介なものである。これは決して私が左派である(正確に言えば、妄想としての「国家」「社会」を取り戻せ、と主張する「若者論」に反対する立場から反ナショナリズムにならざるを得ない)から、という感情的な理由だけではなく、そこには、同様の論理を批判している首都大学東京の非常勤講師である鈴木謙介氏が指摘している通り(鈴木謙介[2005])、「右傾化」という言葉に関する論理や認識の倒錯が生じているからであり、さらに鈴木氏の議論に付け加えるならば、このような議論が結局のところ(俗流右翼が目的としている)「内面」への介入を正当化しうる、ということを含んでいるからである。思えば、この手の議論の嚆矢となる香山リカ氏の肩書きは精神科医だった。

 今回検証するのは、「AERA」平成16年8月30日号に掲載された、同誌編集部の内山洋紀、福井洋平の2氏による「20代の「ガチ」ナショナリズム」という記事である。ちなみに付け加えておくと、この記事は、かつて私が批判したノンフィクション作家の吉田司氏の記事も含めて(「俗流若者論ケースファイル29・吉田司」を参照されたし)、「日本の行方」について論じた一連の特集記事の一つになっている。

 ここから記事の検証に入ることにするが、この記事を読んでいて退屈になるのは、いかにも俗流若者論にありがちな印象操作をしていることだ。具体的に言うと、靖国神社に行った人たちとか(ついでに言うと私も靖国に行ったことがあるが、明治神宮ほどの感動は覚えなかった)、《夜中に外国人と一緒にいると……「俺たちがこうして平和に暮らしているのは、国のために死んだ人がいたからなのに、こいつらはそういうことを考えたこともないんだろうな」》(内山洋紀、福井洋平[2004]、以下、断りがないなら同様)と考えてしまう人たちという風に、若年層の「右傾化」なるものを主張するかの人ばかりを出してしまうのだから。

 また、これは鈴木謙介氏も指摘していることなのだが、著者は(この文章には内山氏と福井氏のクレジットがついているが、どの部分をどちらが書いたものか明確ではないので、こう表現することとする)《そんな彼らが一部の特殊な若者とはいえないデータがある》として、朝日新聞社が平成16年3月と4月にかけて行った調査を引き合いに出し、その証拠から若年層全体が「右傾化」していると断定するところにある。各種アンケートの結果を提示しておこう(単位は%。左から、20代/30代/40代/50代/60代/70代以上)。

 ・小泉首相の靖国神社への参拝は良いことだ
 46/39/32/39/47/52
 ・今の憲法は改正する必要があると思う
 63/62/58/55/46/40
 ・イラクへの自衛隊派遣に賛成する
 51/40/37/41/43/37
 ・今の日本は、自分によってよい国だと思う
 50/41/50/46/49/58
 ・今秋のアメリカの大統領選挙でブッシュ大統領の再選を望む
 27/15/18/23/26/25
 ・沖縄のアメリカ軍基地は今までどおりでよい
 26/15/17/17/22/33
 ・世界の安全を保つために、アメリカが中心的な役割を果たしていると思う
 50/41/47/46/43/38

 以上である。なるほど、この結果を見ると、確かに「若年層が「右傾化」している」と騒ぎ立てたくなる気持ちも分からぬでもない。しかし、これは明らかに「選択された」結果といわざるを得ないのではないだろうか。この著者が「右傾化」をいかに捉えているか、ということに対する疑問については鈴木氏に譲ることとして、ここでは私が持った疑念を羅列的に表していくことにする。

 まず、もしこの調査が、同じ年に起こった沖縄の大学に米軍機が墜落する、という許しがたい事故の後に行なわれたらどうなるか、ということだ。期せずしてこの記事が載った「AERA」が発売されたのはその事故の後なのだから、それについて編集部は調査を行うべきだろう。また、過去との比較が行われていないことも疑問の種になる。新聞社が行った調査であるからサンプリングもある程度は達成されているだろうし、従って誤差も数パーセントにしかならないだろうけれども、だからといって結果の恣意的な選択は許されない。
 しかもこの記事、些細なところに突っ込みどころがある。例えば14ページ3段目、《過去の日本や戦争を懐かしんでいるわけではない。中国や韓国への戦後補償はちゃんとするべきだし、天皇制へも固執しない。新憲法を制定して、軍隊を持つ「普通の国」になったときには、「君が代」も変えなくては、と思う》人のどこが「右傾化」しているのだろうか。
 とりわけこの記事において頭が痛くなるのは、社会学者の北田暁大氏の発言である。北田氏は信頼できる人だと思うのだが、この文章の発言は明らかにおかしい。例えば14ページ4段目、《「イデオロギー的な対立がみられなくなった今、若者の間では、現実主義の一人勝ち状態。議論をしていても、現実と会わないものは『それは理想』で片付けられてしまう」》というのは、少なくとも北田氏の周りではそうなのかもしれないけれども、それがどこまで広がりを持っているか、ということに関しては北田氏は語らずじまいだ。同じ段の《「学生の気質も変わりました。……いま30前後の世代では、授業なんて出なくて当たり前だったのに」》なんて、単なる「私語り」以外の何物でもなかろう。

 また、著者は、14ページ5段目においてナショナリズムを歌い上げるヒップホップユニットの歌詞を採り上げるのだが、このユニットを、私はオリコンチャートで名前を見たことがない。もちろんチャートがその歌手及びユニットの人気を直接に表しているわけではないのだろうけれども、このユニットの人気はいかばかりのものか、あるいは音楽業界内での評価はどうか、などは、少なくとも仙台在住でアニメソング愛好者の私にはわからない。

 また、著者は、15ページの1段目において、《今回取材した20代男性の愛読書で断トツに多かったのが、この『坂の上の雲』(筆者注:文春文庫。作家の故・司馬遼太郎氏の有名な著作)だった》と書いている。「AERA」が後に「30代女性のための司馬遼太郎入門」(平成17年5月2・9日合併号に掲載。著者は編集部の石川雅彦氏)という記事で、この『坂の上の雲』を好意的に採り上げたことを知っている私は思わず吹いた。私が吹いた理由はこれだけではなく、同じ雑誌の同じ号に、明らかにナショナリズムを煽り立てるオリンピック関連記事が載っていたという理由もある(残念ながら今は手許にない)。ダブルスタンダードが許されるのは、俗流若者論ゆえだろう。

 あまり揚げ足取りをしたくはないので、細かい部分に対する突っ込みはこれくらいにしよう。しかし、この記事は、左派の俗流若者論の大きな問題点をそのまま体現しているのである。

 著者は、巨大ネット掲示板の「2ちゃんねる」において《世間の誰もが「たたかれる」対象になりうる中で、なぜか「政府」や「官僚」が俎上にあがることは少ない》と書いている(ついでに私の名前もたびたび挙がる2chの大谷昭宏氏を取り扱ったスレッド(掲示板)では、少なくとも政府は表現規制がらみで何回か批判されている)が、そういう左派は、「今時の若者」はしきりに嘆くけれども、たとい「週刊金曜日」という左派の牙城とでも言うべき雑誌で、筑紫哲也氏や本多勝一氏といった大御所があからさまな言語ナショナリズム(+俗流若者論)をその連載で開陳していても(実際に開陳している。筑紫氏については、「俗流若者論ケースファイル10・筑紫哲也」を参照されたし)、彼らはそれを右傾化と批判しない。逆に、例えば東京大学教授の藤原帰一氏がイラク戦争に関わる左派の議論に対して、もっとリアリズムの視点から反戦平和を語ったらどうか、と苦言を呈したところ、藤原氏は右傾化したと糾弾されたという(金子勝、アンドリュー・デウィット、藤原帰一、宮台真司[2004]332ページ)。

 要するに、左派自身が強烈な「学級会民主主義」、要するに逸脱を許さず、その頂点に立つもの(ここでは筑紫氏と本多氏)は許すが、「村の掟」を少しでも逸脱した下部構造のもの(ここでは藤原氏)には強烈な制裁を与えるという思考停止に陥っているのだ。そしてこの「学級会民主主義」的傾向こそ、(鈴木謙介氏も指摘していることだが)まさしく、この記事で著者が難じた「「ガチ」ナショナリズム」の正体なのである。私は、他人の欠点は自分の欠点の投影なのだという俗流心理学者の言葉は信じたくはないけれども、少なくとも2ch同様の「学級会民主主義」に陥っている左派が若年層の「右傾化」を嘆く、というのは、結局のところ目糞鼻糞を笑うものでしかないのである。

 そしてこれは、現代の言論状況の一端でもある。要するに、「学級会民主主義」の蛸壺がまた別の蛸壺を攻撃している、という状況である。この蛸壺化の傾向は、特に右派に強く、その傾向が特に先鋭的に見える産経新聞社の月刊誌「正論」は、もはや正視するに堪えないほどの質の低下が目立つ。また、我が国の言論の場に参加するためには、その「蛸壺」の住人として認められることが第一となる(朝日新聞社の「論座」あたりには、その「蛸壺化」を解体しようとする試みが見られるが、あまり成功していないように思える。やはり俗流論壇人は「蛸壺」のほうが楽なのだろう)。

 少し話がそれてしまったが、左派の「若年層の「右傾化」」批判は、結局のところこのごろ力を失っている蛸壺を、若年層に対する敵愾心でもって強化しようという試みでしかないのである。かつて敵愾心によって蛸壺を強化して我が国を破滅に導いた国家的運動があったが、結局のところ左派はそれとまったく同じ構造を繰り返しているに過ぎないのである。結局のところ、我が国の論壇において「論争」と称するものの大半は、「蛸壺」同士の不毛な戦いでしかない。

 この記事には《日本を愛する気持ちや大国への憧れをあまりにもストレートに表現する彼らは、裏返せば「自分」という存在への不安感があるのかもしれない。だからこそ、せめて国=日本には強烈な存在感を示してほしいと思うのだろうか》というくだりがある。しかし、この構造は、左右を問わず全ての俗流若者論に見事に当てはまるだろう。今や左派にも俗流若者論のための歴史修正主義者が出現し、過去を美化する、という点においてはもはや五十歩百歩になってしまっている。私が冒頭で「反若者論」の立場から反ナショナリズムにならざるを得ない、と書いたのは、まさにこの構造に対するアンチテーゼである。

 参考文献・資料
 内山洋紀、福井洋平[2004]
 内山洋紀、福井洋平「20代の「ガチ」ナショナリズム」=「AERA」2004年8月30日号、朝日新聞社
 金子勝、アンドリュー・デウィット、藤原帰一、宮台真司[2004]
 金子勝、アンドリュー・デウィット、藤原帰一、宮台真司『不安の正体!』筑摩書房、2004年10月
 鈴木謙介[2005]
 鈴木謙介「若者は「右傾化」しているか」=「世界」2005年7月号、岩波書店

 笠原嘉『アパシー・シンドローム』岩波現代文庫、2002年12月
 谷岡一郎『「社会調査」のウソ』文春新書、2000年5月
 歪、鵠『「非国民」手帖』情報センター出版局、2004年4月
 山本七平『日本はなぜ敗れるのか』角川Oneテーマ21、2004年3月

 姜尚中「「こころ主義」蔓延した1年」=2000年12月29日付朝日新聞
 杉田敦「「彼ら」とは違う「私達」――統一地方選の民意を考える」=「世界」2003年6月号、岩波書店
 増田聡「軽やかに歌われる君が代ポップ」=「論座」2005年5月号

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