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2005年7月10日 (日)

俗流若者論ケースファイル35・斎藤滋

 相変わらず、曲学阿世の徒・日本大学教授の森昭雄氏の「ゲーム脳」理論という疑似科学に対する支持者は後を絶たないが、今回はちょっと面白いのを見つけたので紹介したい。

 宮城県図書館で東京新聞のマイクロフィルムを見ていたとき、斎藤滋という人物が書いているコラムを見つけた。斎藤氏の肩書きについては、ここでは少し伏せておこう。今回検証するのは平成15年10月31日付東京新聞に掲載された斎藤氏の「人間らしさを育てる」というコラムなのだが、この人、いきなりこのように書き出してしまうのだから救いようがない。

 いつもイライラしている、すぐ頭に来る、食卓や机をたたいて怒る。まさか、みなさんの周辺にはこんな光景はありませんよね!

 最近、テレビゲームや携帯電話でのゲームに熱中する子どもや若者が増えています。これらのゲームは瞬発的な判断が必要ですが、知、情、意といった人間としての判断力が育ちません。脳神経科学の専門家である日大医学部・森昭雄教授(ゲーム脳の恐怖:NHK出版・生活人新書)は、これらのゲームに長時間熱中していると、前頭前野(脳の前方部分で、脳に入った情報を総合的に統合している)がうまく機能しなくなり、痴ほう症の人と類似した状態(若年痴ほう)になると警告しています。(斎藤滋[2003]、以下、断りがないなら同様)

 ついでに言っておくと、このコラムが掲載されたのは、精神科医の斎藤環氏(以下、この文章において単に「斎藤氏」と表記したときは、斎藤滋氏を表すものとする)による「ゲーム脳」理論への徹底批判が掲載された著書『心理学化する社会』(PHP研究所)が発行されたおよそ1ヶ月後であり、一般書に「ゲーム脳」理論への批判が載り始めた頃であるから、今更このような「ゲーム脳」礼賛記事が載るのはいかがなものか、と思った人も少なくないかもしれない。とりあえず、《これらのゲームは瞬発的な判断が必要ですが、知、情、意といった人間としての判断力が育ちません》という物言いは、ゲームに対する無理解の裏返しでしかないことは言っておきたい。例えばロールプレイングゲームやシミュレーションゲーム、アドヴェンチャーゲームなどは熟考を必要とする。また、斎藤氏は《ゲームに長時間熱中していると、前頭前野(脳の前方部分で、脳に入った情報を総合的に統合している)がうまく機能しなくなり、痴ほう症の人と類似した状態(若年痴ほう)になる》と言っているけれども、森氏がその根拠としたのはただ痴呆症患者と「ゲーム脳」の人の脳波が類似していた、ということだけ。このような疑似科学の論法を批判できなくて、コラムを書く資格があるのか。

 しかも、斎藤氏は(森氏の受け売りで)このようなことを言い出すのだからますます救いようがない。

 なんと、テレビゲームを始めて約一分後に脳波的には痴ほう症状態になります。通常はゲームを止めて20~30秒で元の状態に回復します。しかし、ゲーム常習者は、止めても痴呆症と同じような脳波が持続するという衝撃的なデータを森教授は例示しています。

 《なんと》とか《衝撃的なデータ》なんて、冗談も休み休み言っていただきたいものだ。ゲームのような単純作業の熟練者は、熟練した作業をやっていても脳波にさして変化が見られなくなる、というのは脳科学の常識なのだが。

 ちなみに、ドイツのジャーナリストであるロルフ・デーゲンの著書『フロイト先生のウソ』の349ページでは、米国の実験で、単語の記憶テストを行なったところ、成績の低い人は前頭葉や海馬が活発に活動していた、という事例が紹介されている(ロルフ・デーゲン[2003])。ということは、成績の高い人は暗記テストをやっても脳が活性化されない!これは問題だ!まさに「暗記脳の恐怖」(笑)!!まあ、森氏と斎藤氏はこう言っているのに等しい、ということを認識されていただければ十分である。森氏や斎藤氏、及び他の「ゲーム脳」賛同者は、ゲームなら、さらに踏み込むなら若年層なら何を言っても許される、と思い込んでいる節がある。

 このコラム自体が斎藤氏の妄想爆発コラムなのであるのだが、しかしこれでは私が冒頭で言った「ちょっと面白い」コラムではないだろう。そこらの「ゲーム脳」礼賛記事と大差ない。ではここで種明かしをしよう。斎藤氏は、この妄想コラムを、このような文章で締めくくっている。

 現在、日常の社会・学校生活でも、前頭前野をはぐくむ環境づくりの必要性が指摘されています。最近、食物やガムを噛むことで、若者・中年・高齢者の前頭前野が顕著に活性化されることを世界で岐阜大医学部・藤田雅文講師らのMRI(磁気共鳴機能画像)で証明されました。……

 食物やガムをよく噛んで、人間らしい感性・情緒感を育てましょう!

 噛むことが「ゲーム脳」の「治療」になる?森氏はお手玉が「ゲーム脳」の「治療」になると言っていたはずなのだが。

 実を言うと斎藤氏、日本咀嚼学会の前理事長(現在は監事)なのだ。このコラムも実は斎藤氏の連載コラム「噛んで元気」の第18回なのである。そう考えれば、斎藤氏が「噛むこと」をここまで重要視するのも納得がいくだろう。しかし、ここで「ゲーム脳」など持ち出してくる必要などあったのだろうか。

 岐阜大の藤田講師らによってガムを噛むことで前頭葉が活性化されることが証明された、というのは事実である。私も大学受験期、ガムを噛みながら勉強していたことがあるので、「噛むこと」の有意性については否定するつもりはない。しかし、それを(諸悪の根源とされている)「ゲーム脳」と結び付けて、ゲームは人間性を奪い、そこで奪われた人間性を「噛むこと」が取り戻してくれる、と書いてしまうのは、結局のところ「ゲーム脳」は自分の営利のための道具でしかないのではないか、と言われても仕方ないのではないか。斎藤氏よ、少なくともあなたは日本咀嚼学会の理事長まで上り詰めた身分なのだから、「ゲーム脳」の如き疑似科学に踊らされてはまずいと思うのだが。

 しかし、青少年問題言説を自分の営利に結び付けてしまうのは、悪しき商業主義ここに極まれり、である。そういえば私がかつてネットを巡回していた頃、ある空手の道場が「青少年問題の解決の成果」をサイトに掲げて、その道場がいかに「ひきこもり」を解決したか、ということを喧伝していたものがあった。どことは言わないけれども、とりあえず現在の状況に関して言えることは、政治や俗流論壇に限らず、一般社会でも青少年問題を「自己実現」の為に利用するという事態が蔓延している、ということだろう。

 参考文献・資料
 斎藤滋[2003]
 斎藤滋「人間らしさを育てる」=2003年10月31日付東京新聞
 ロルフ・デーゲン[2003]
 ロルフ・デーゲン、赤根洋子:訳『フロイト先生のウソ』文春文庫、2003年1月

 池谷裕二『進化しすぎた脳』朝日出版社、2004年10月
 斎藤環『心理学化する社会』PHP研究所、2003年10月

 柄本三代子「科学のワイドショー化を笑えない時代」=「中央公論」2002年11月号

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コメント

いつもご苦労様です。
連日出稿のバイタリティーに感服いたします。

投稿: 古鳥羽護 | 2005年7月10日 (日) 20時07分

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