各党マニフェストにおける青少年認識/対策
平成17年9月11日には、衆議院議員総選挙が行なわれる。ただ、この選挙に関して、与党はほとんど郵政民営化一本槍であり、野党は逆に与党に対する批判でもって票を集めようとしているので、選挙の争点のほとんどが「郵政民営化」になりつつある。しかし、各種世論調査を見ても分かるとおり、国民は選挙の争点を「郵政民営化」だと思っていないのが実情である。
もっとも、そのような世論調査を見ていても、青少年問題が争点であると答える人はかなり少ない。しかし青少年問題対策もまた重要な政策の一つであり、争点に組み込まれるべきだろう。ただし、それも適切な認識に基づいて行われなければならないのであり、従ってマスコミで喧伝される如き扇情的な情報に基づいて行なわれてはいけないのである。
というわけで、今回は、主要5政党(自民・公明・民主・社民・共産)マニフェストにおける青少年に対する認識と政策を、比較検証していきたい。
なお、投票に行く前に、以下のサイト・ブログも読んでおくことを勧める。
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1、マニフェスト全体としての感想
マニフェストを読んだ感想としては、まず民主党のマニフェストは、さすがにもっともマニフェスト政治を推進している政党だけあってか、細部まで作り込まれていた。冒頭に大まかな政策提言とスケジュールを表し、細かい政策を後半に盛り込み、具体的なプラン、すなわち何をするか、ということや、更に言えばどのような問題意識によって政策を構築しているか、ということについても書かれているので、批判・検証する側にとっても親切な設計になっている。
次に面白かったのは公明党で、この党は今やほとんど自民党の傀儡政党になってしまった感があるが、少なくともマニフェストに関しては親分の自民党よりも作りこまれている。
次は社民党か。基本的に自民・公明・民主の3党に比して社民党のマニフェストはきわめて薄い。ただ社民党に関しては、政策提言が全体を見通しているように見えるし、最後のページにおいて社民党は「もう一つの日本」を目指す、という提言をしている点では買える。
共産党のマニフェストは、かなり作り込まれているとはいえ、あれでは「批判ばかりして対案を出していない」の領域を超えていないように思える。なお、共産党のマニフェストに関しては、インターネットの記述を用いている。
自民党のマニフェストは、はっきり言ってデザインと見出しだけは大々的なのだけれども、中身ははっきり言って空疎。デザインばかりが先行して計画をおろそかにした建築物みたいだ。小泉政権の反映なのか。一番つまらない。
2、少子化対策・子育て支援
さて、ここからが本題である。1つ目は「少子化対策」「子育て支援」に着目してみたい。
基本的にはこれに関しては、全ての政党が明記しているが、具体的に支援額などを書いているのは民主党と社民党と公明党。民主党は、月額16000円の「子ども手当」や、「出産時助成金」の設立、学童保育の充実化などを謳っている。社民党は、父親の産休制度の拡充や、18歳未満の子供に対して毎月支給される「子ども手当」の創設、及び一人親家庭への支援などを謳っている。特に一人親家庭への支援は社民党だけの主張である。公明党は「チャイルドファースト社会の構築」を重点政策の一つとして出し、児童手当の所得制限の緩和、出産育児一時金の値上げ、及び中小企業への育児休業支援を明示している(一人あたり100万円)。中小企業への育児休業支援は公明党のみの主張。
自民党は、児童手当制度や子育て支援税制について触れてはいるけれども、具体的な数値目標を出して折らず、結局のところ威勢のいい言葉だけを振りかざしているだけ。地味な政策提言には目が向かない、これが小泉政権クオリティ?共産党も具体的な数字の提示はなし。
それから、全ての政党が、「少子化は問題である」「少子化は子育て支援で解決できる」と考えているらしいが、子育て支援が少子化を解決するわけではないことは、信州大学助教授の赤川学氏が主張している通りだ(赤川学[2004])。また、少子化によって起こる問題を賞しか「対策」(=子育て支援)で解決すべき、という認識も、結局のところは人口増加社会を前提とした現在の社会保障制度などの焼き直しでしかないだろう。政策研究大学院大学教授の松谷明彦氏などが主張している通り(松谷明彦[2004])、少子化を前提とした社会構築が求められている、という側面もあり、そのような主張をマニフェストに取り込んだ政党が、主要5政党の中では一つもない、というのが残念だった。
3、教育
もっとも明快なのがやはり民主党。民主党の主張としては、校長先生の公募制度の拡大、地域住民や保護者の参画を推進、総合学習との関わりで土曜授業・放課後授業の推進、スポーツ振興など。特にここで採り上げたものは全て民主党のみの主張であり、民主党が政権交代に意欲を持っていることがここからも窺える。ただし教育基本法には触れず。社民党も教育予算の対GDP比5%達成と、20人学級、教職員を30万人増やす、奨学金制度の拡充(これに関しては民主党も主張している)という公約を掲げているが、教育基本法には触れず。
公明党は民主党の次に充実していた。主張としては体験学習の充実、奨学金の拡充、小学校における英語教育の必修化。特に英語教育に関しては公明党だけの主張。
自民党は「義務教育の質的向上のための教育改革」を謳っているけれども、政策立案の点で民主党に及ばず。ただし教科書検定の必要性を検討していることだけは評価に値する。
共産党は30人学級の推進、住民の意向を反映させる、といっているが、ほとんどが自民党の推進する教育基本法の改正や特定の歴史教科書に対する対抗を強めている。
そして民主・社民以外の政党は、全て教育基本法に触れていた。自民党はやはり改正推進。記述に曰く《教育基本法を改正し、豊かな上層と道徳心にあふれ、正義と責任を重んじ、強度や国を愛する心や公共の精神が身につく教育を実現する》(自民党マニフェスト)。と。自民党にいわれたくないよなあ。逆に反対の立場を採っているのが当然共産党で、共産党は教育基本法の改正のみならず「日の丸」「君が代」の強制の反対、侵略を正当化する歴史教科書の反対の、愛国主義教育反対の3点セットを打ち出している。公明党は慎重派で、《基本法の基本理念は堅持》《「国を愛する心」を法律で規定することについては、戦前の反省を踏まえて慎重に検討する必要があります》(公明党マニフェスト)という記述が存在する。
共産党のマニフェストで評価できるのは、性教育の重要性を訴えているところ。曰く、《青少年の間で性感染症や望まない妊娠がふえるなか、性教育は重要な課題です。自民党などによる「性教育=過激」攻撃には道理がありません。保護者と教育関係者が連携してていねいに性教育を進められるようにします》(共産党マニフェスト)と。安倍晋三氏を中心として自民党が推進している「ジェンダーフリー教育反対」「「過激な性教育」反対」をマニフェストに盛り込まなかった自民党のヘタレぶりと比較すれば、共産党には賛辞を送りたい。
ただ、共産党が本当に子供のことを考えているかどうかについては少々留保すべき点もあるけれど…。これに関しては第5節で。
4、若年無業者支援及びフリーター・非正規雇用者対策
若年無業者(ニート)については全ての政党が記述。もっとも具体的なのはやはり民主党。民主党マニフェストには、失業・無行状態の若年に個人アドヴァイザーによるマンツーマンの就労支援、就労支援手当、及び若年無業者が集まることのできる場所の設立を主張している。また民主党は《全国の中学2年生に年間5日以上の就業体験学習を実施します》(民主党マニフェスト)と、東京大学助教授の玄田有史氏の主張に基づいたと思われる記述をしているけれども、これに関してはむしろ教育改革、総合学習の支援の文脈で行なわれるべき、というのが私の主張である。若年無業者の問題に関しては、民主党は若年無業者もまた社会階層の問題が絡んでいるという点に触れられていなかったのが痛いところだ(これに関しては、玄田有史[2005]、小杉礼子[2005]、宮本みち子[2005]を参照されたし)。
自民党はフリーター25万人常用雇用化プラン、「若者の自立・挑戦のためのアクションプラン」の推進を掲げているが、具体的な数値目標はなし。公明党もこのプランの効率化を図る、という主張。蛇足だけれども公明党のマニフェストには《教育段階からの予防的対策に重点を図ります》(公明党マニフェスト)と書いているが、若年無業者が「予防」すべきものだ、という認識では若年無業者問題は解決できないと思う。
若年無業者対策に隠れてか、フリーターはあまり政策に上っていないような気がする。ただしフリーター及び非正規雇用者と正社員の、企業福祉などの点における格差については自民・民主・共産が触れている。一番明快なのが共産党で、共産党は「パート・有期労働者均等待遇法」「派遣労働者保険法」の成立を主張し、均等待遇のルール、解雇の規制、サーヴィス残業の規制に取り組むなど、極めて意欲的。民主党は共産党にやや劣り、パート均等待遇実現のための「パート労働法改正案」や、失業・廃業からの再出発としての手当支給・職業訓練(これについては共産党も主張している)の主張にとどまっている。自民党は、《短期間正社員制度の導入推進、パートタイム労働者の待遇の改善、正社員への転換制度の普及・定着等、パートタイム労働政策を充実・強化する》(自民党マニフェスト)と書かれている程度。
5、メディア規制
「青少年の健全育成」を楯に取ったメディア規制を主張しているのは自民・民主・共産。特に力を入れて記述しているのはなぜか共産。曰く《政治の腐敗、大企業のモラルハザード、戦争正当化や暴力肯定の風潮、人間の性をおとしめる傾向などとたたかい、社会のモラルと道義を確立するために努力します》《児童買春や性の商品化では、国連子どもの権利委員会からきびしい勧告がだされています。メディアでの暴力や性の表現が、子どもに野放しになっています》(共産党マニフェスト)だとさ。自民党も「青少年健全育成の推進」を謳っている。右も左も俗流若者論で結託してしまう様を見ているようだ。民主党もまた、《書籍の区分陳列や放送時間帯の配慮などによって、普通に暮らす子どもたちが有害情報に触れないですむ環境をつくります》(民主党マニフェスト)などと書いている。どうやら自民・民主・共産の各党のマニフェスト起草者は、「有害」情報と「有害でない」情報を分けることができるとか、「有害」情報は等しく青少年を堕落せしめる、とでも考えているようだけれども、まずあんたらの青少年に対する認識を改めろよ。
ただし、民主党に関しては、《情報のもつ意味を正しく理解し、活用できる能力(メディアリテラシー)を育むような教育》(民主党マニフェスト)を打ち出しており、この点に関しては賛同できる。更に民主党は、通信傍受法(盗聴法)、住民基本台帳ネットワーク、個人情報保護法の見直しを打ち出し、社民党もまた共謀罪の新設に反対するスタンスを明確にしている。
蛇足だけれども、メディアがらみで言うならば、民主党は「テレビの字幕化の推進」を打ち出している点でユニークである。曰く、《聴覚に障がいのある方もテレビ放送を楽しみ、情報を確保できるようにするため、2009年度までに、技術的に可能なすべてのテレビ番組の字幕化を実現します》(民主党マニフェスト)と。
6、治安
治安に関して、少年犯罪への対処に触れているのは自民党のみ。曰く、《組織犯罪、サイバー犯罪、少年犯罪に対処する関連法整備を推進する》(自民党マニフェスト)と。少年犯罪よりも人口当たりの発生率の高い中高年犯罪は無視ですか。
7、まとめ
青少年問題に関する取り組みの視点から、もっともマニフェストで評価できるのは民主党である。従って、私は民主党に投票することを勧めるのだが、ただ民主党に関してはきな臭い動きも少なくなく、特に民主党右派で「日本会議」のような右派系政治団体に関わっている人や、民主党左派の一部のフェミニスト議員(特に水島広子氏と肥田美代子氏)はメディア規制を推進しているし、マニフェストにもメディア規制が盛り込まれている。民主党には自民党より過激なメディア規制論者も存在しているようなので、投票する際にはそのようなことを一定ないかを見極める必要がある。民主党は「子ども家庭省」の設立を主張しているけれども、この最高ポスト(大臣)に水島氏や肥田氏が就いてしまったらメディア規制への流れは止めにくくなるだろう。私の願望としては民主党と社民党の連立政権が望ましいと考えている。
参考文献・資料
赤川学[2004]
赤川学『子どもが減って何が悪いか!』ちくま新書、2004年12月
玄田有史[2005]
玄田有史「ニート、学歴・収入と関連」=2005年4月13日付日本経済新聞
小杉礼子[2005]
小杉礼子「就職の仕組み柔軟に」=2005年4月14日付日本経済新聞
松谷明彦[2004]
松谷明彦『「人口減少経済」の新しい公式』日本経済新聞社、2004年5月
宮本みち子[2005]
宮本みち子「包括・継続的な取り組み必要」=2005年4月16日付日本経済新聞
玄田有史『仕事のなかの曖昧な不安』中央公論新社、2001年12月
日垣隆『現代日本の問題集』講談社現代新書、2004年6月
広田照幸『教育不信と教育依存の時代』紀伊國屋書店、2005年3月
「フリーターとは誰か」=「現代思想」2005年1月号特集、青土社
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コメント
トラックバックありがとうございます。ついに投票を迎えるわけですが…今から気が重いです。自民党の大勝即ち青少年環境対策基本法が通過確定(メディアリテラシーを謳うも対抗の民主党のマニュフェストにも有害環境から守るとの文言アリorz)。
投票には必ずいきますが真正自由主義者の権益を保護してくれる政党はなく、まさにより悪くないほうという基準でしか選べないこの悲しさ。
投稿: 遊鬱 | 2005年9月 9日 (金) 23時06分