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2005年10月 8日 (土)

俗流若者論ケースファイル73・別当律子

 しかし、不安便乗商法というのも怖いものだ。最近、文部科学省が発表した、小学校における校内暴力の件数が「過去最大」になった(この調査の問題点に関しては、「俗流若者論ケースファイル72・読売新聞社説」を参照されたし)という報告を受けて、そこらじゅうでまたぞろ子供たちに対する不安を煽る如き記事が乱発されている。情報ポータルサイト「All About」において、ライターの別当律子氏が書いた記事「“キレる”子どもにはワケがある? 小学校の「校内暴力」急増中!」も間違いなくその一つであろう。

 別当氏は、小学校における「校内暴力」の増加の原因を、「低血糖症」、すなわち血糖値の低さに還元している。その理由として、別当氏は、このように書いている。

 ささやかれている「ある理由」、それはズバリ「低血糖症」です。血糖値とは、血液の中のブドウ糖の濃度を表す値で、食事を摂れば上がり、空腹なら下がるといった変動があるものの、子どもも大人も80~110mg/dlが正常値です。低血糖とは、読んで字のごとく、血液中の血糖値が低下してしまうものです。ブドウ糖は脳の唯一のエネルギー源です。脳が身体の中に占める割合はわずか2%ですが、ブドウ糖の消費量は20%にもなります。
 しかも、他の臓器は糖を貯えておくことで糖の量の変動に耐えることができますが、脳はそれができません。そのため、低血糖状態が長く繰り返されると、脳にとって大きなダメージとなってしまうのです。エネルギー源であるブトウ糖が枯渇した状態が長く続くと、動機、貧血、無気力、めまい、頭痛、不安感、非社会的行動、集中力の欠如、生あくび、うつ、忘れっぽくなるとった症状が出ると言われています。さらに、脳は低血糖状態を補うために、アドレナリンというホルモンを分泌し、体内に蓄積されている糖分を血液中に出して糖をなんとか確保しようとします。
 しかしアドレナリンは、別名「攻撃ホルモン」とも呼ばれ、これが過剰に分泌されると、興奮状態になって、攻撃的になってしいます。乳幼児だけではなく、大人だって、空腹状態になるとなんとなくイライラして怒りっぽくなることはありませんか? まさにあの状態こそが脳からアドレナリンが過剰に放出されている状態というわけです。(「All About」内「“キレる”子どもにはワケがある? 小学校の「校内暴力」急増中!」、以下、断りがないなら同様)

 とりあえずこれに関してはこの説明を受け入れることとするが、この記事において問題なのは、何故子供たちが「低血糖症」ゆえに「キレる」のか、ということに関して、別当氏が採り上げるのはファストフードやスナック菓子なのだが(いい加減聞き飽きました)、どうして別当氏がそのように考えるのか、ということが、極めていい加減、というよりも疑わしいのである。

 ついでに「校内暴力の急増」と「低血糖症」の関係が本当に証明されたか、ということについては、100億歩譲って認めることとする。

 血糖値の特徴として、その値が急激に上昇すると、下がるときもまた急激であるという点があります。ご飯など、でんぷん類は血糖値をゆっくり上昇させまずが、その一方、ブドウ糖、果糖を多く含むものを摂取すると、血糖値は急激に上昇します。そしてブドウ糖、果糖を多く含むものこそ、炭酸飲料、スナック菓子類、ファストフード類だと言われているのです。
 身体の機能が未熟な子どもたちは、食事による血糖値の変化も激しいと言われています。そんな子どもたちがスナック菓子を片手に炭酸飲料を飲んで… などということを毎日続けていれば、身体が低血糖状態におかれる状態が長く続くことになります。するとアドレナリンが過剰に放出されて、興奮状態になり… もうその先の結論は言わなくてもおわかりのはずです。
 もちろん、小学校で校内暴力が増加している原因は複雑です。しかし、やれ家庭のせいだ、学校のせいだ、文部科学省が悪いと騒ぐその前に、一度、子どもたちの食生活を見直すことから始めてみませんか?

 ファストフードやスナック菓子に大量にブドウ糖や果糖が含まれているなら、血糖値はむしろ高くなるはずであろう。しかし別当氏ときたら、大量に摂取しているからこそ、低くなるのも激しいのだ、と言うのである。だが、そのようなことに関する具体的なデータを別当氏は示していないのだが。

 しかしこういう、ファストフードやスナック菓子をしきりに攻撃する人というのは、そういうものを食べる子供たちと暴力を振るう子供たちが重なって見えて仕方ないのだろうか。しかし、そもそも校内暴力が盛んになった昭和50年代後半~60年代、あるいは少年による凶悪犯罪がもっとも起こっていた昭和35年ごろと比べてどうなったのか、ということを一切示さない限り、説得力はない。この書き手は確信的にやっているのか、それとも能天気なのか。

 それにしても最近になって、こういう風に一見もっともらしい(が、内実を伴っていない)「科学的」裏づけをして青少年問題を論じる、というのが多くなった。最近では、若年層が無業状態になるのは脳内物質のひとつであるセロトニンの減少が原因だ、という論説まで見かけるようになったし(神山潤[2005]。実際の説はもう少し複雑で、コミュニケーション能力の低下はセロトニンの減少が原因であり、その結果無業となる、というもの)。

 ところで、以下のくだりをもう一度見て欲しい。

 身体の機能が未熟な子どもたちは、食事による血糖値の変化も激しいと言われています。そんな子どもたちがスナック菓子を片手に炭酸飲料を飲んで… などということを毎日続けていれば、身体が低血糖状態におかれる状態が長く続くことになります。するとアドレナリンが過剰に放出されて、興奮状態になり… もうその先の結論は言わなくてもおわかりのはずです。

 《もうその先の結論は言わなくてもおわかりのはずです》だと?そういう子供が自暴自棄になって自殺してしまう可能性は?スポーツで発散したくなる可能性は?攻撃的な小説や芸術に目覚める可能性は?

 このように、今の子供たちの現状をさも地獄絵図の如く描き、《もうその先の結論は言わなくてもおわかりのはずです》などという脅し文句を添えて、子供たちに対する不信を煽り立てる、という方法は、子供に対する侮蔑である、ということを別当氏他このような詭弁を弄して親たちを不安に陥れたがる人たちは自覚すべきである。

 蛇足だが、別当氏の如き「砂糖を大量に摂取すると血中の等分が不安定になって、精神的に不安定になる」、という論理は、専門家の間では既に俗説扱いされているようだ。「月刊現代」平成17年10月号210ページに掲載されているので、参照されたし(中村知空[2005])。

 参考文献・資料
 神山潤[2005]
 神山潤『「夜ふかし」の脳科学』中公新書ラクレ、2005年10月
 中村知空[2005]
 中村知空「巷にはびこる「健康情報」50のウソ・ホント」=「現代」2005年10月号

 髙橋久仁子『「食べもの神話」の落とし穴』講談社ブルーバックス、2003年9月

 柄本三代子「科学のワイドショー化を笑えない時代」=「中央公論」2002年10月号、中央公論新社

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コメント

不安商法・・・ね。
こういう方たちは、文章を売っているわけなので、ある種の不安につけこんだ商売と見られても仕方ないですね。

ゲーム脳とか、もう見飽きました。

投稿: ダイスケ | 2005年10月12日 (水) 21時14分

先日、わが子の小学校で保護者対象の「給食試食会」があり、参加しました。地区の栄養指導職員(?)が「早寝早起きして、朝食をきちんと食べる子は、授業中落ち着いて勉強ができ、成績が良い」という話をされました。
近くにすわっていたお母様の一人が、「今は、食べない子より、食べすぎて肥満になる子の方が多いんだから、肥満の話が聞きたい」と小声でつぶやいているのを聞いて、「同感」だと思いました。
最近は、子どもの「起立性調節障害」が増えていて、低血圧で朝起きられない体質の子が多いそうです。そういう子は、食塩と水分を多い目に摂った方がいいとか。
個々人の体質や生活習慣の違いを認めず、十把一絡げに「○○が正しい」とするのは、止めてもらいたいです。

投稿: rabbitfoot | 2005年10月17日 (月) 23時59分

例の小学校の校内暴力急増の報道があった時、テレビで学校の先生が、
「いじめや暴力を起こす子は早くから塾通いをしている勉強の出来る子」とコメントしていました。

それと朝日新聞紙上に(ネットでは確認できず)に教育評論家の尾木直樹氏が、「今の学校は休み返上の補習など
トレーニング的学力向上といった詰め込み教育の"圧"が掛かっているのが原因」などと書かれていました。

子供がキレるのはゲームでもテレビでも食い物でもなく勉強(学力向上策)が原因じゃないのか?

投稿: _ | 2005年10月21日 (金) 00時28分

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