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2006年1月16日 (月)

2005年10~12月の1冊

 私が平成17年10月1日~12月31日までに読んだ本に関して、特に印象に残ったものを紹介します。ちなみに、フリーターや若年無業者問題に関する本は、別のところで採り上げるのでここでは紹介しません。

 ついでに言いますと、今月の光文社新書の新刊(17日発売)として、本田由紀氏(東京大学助教授)、内藤朝雄氏(明治大学専任講師)、そして私の3人の共著として『「ニート」って言うな!』という本が刊行されます。私の執筆パート(第3部)では主として「現代若者論の中の「ニート」論」をテーマに書きました。

 特に内藤氏の執筆部分(第2部)は、ぜひとも若者論に関わる多くの論者に見て欲しい!この部分を読めば、短絡的な若者論を熱心に振りまいてきた人(あるいは、信じてきた人)は恥ずかしくなるのではないでしょうか。

 1:広田照幸『《愛国心》のゆくえ』世織書房、2005年9月
 教育基本法改正の問題に関して、右派の「日本の教育には愛国心が足りない」という議論と、左派の「学校で愛国心を教えたら偏狭なナショナリズムにつながる」という議論の両方を排して、この問題で本当に向けられるべき問題とは何か、ということを論じた本。具体的に言えば、「公共性」とは何かということを議論の出発点として、政治的境界線の変容や、改正論者が「公共性」をどのように捉えているかということなどにも触れられており、凡百の教育基本法議論とは一線を画している。

 2:ウルズラ・ヌーバー、丘沢静也:訳『〈傷つきやすい子ども〉という神話』岩波現代文庫、2005年7月
 米国のトラウマ・ブームを批判した本。本書は、我が国でも日々勢力を強めている心理学主義的勢力に対して強烈な打撃となることは間違いないだろう。本書はまず「子供時代」が全てを決める、というトラウマ理論に対する反駁から始まり、なぜ「子供時代」の物語に我々は惹かれてしまうのか、という領域まで踏み込んでいる。ただ、筆者の遺伝子決定理論への少々過剰な肩入れが心配されるところだけど…。

 3:マイクル・シャーマー、岡田靖史:訳『なぜ人はニセ科学を信じるのか』ハヤカワ文庫、上下巻、2003年8月(上巻下巻
 米国にはびこった疑似科学を斬った本。上巻では、疑似科学ではおなじみの「宇宙人による誘拐」などのストーリーの虚構について触れられており、下巻ではホロコースト否定論と「創造科学」の虚構にスペースが割かれている。白眉はなんといっても「創造科学」に対する痛烈な批判。平成17年9月末に、産経新聞で「創造科学」を教えよ、と主張したインタヴューが掲載されたが、そのようなインタヴューを読む前に本書を読もう。

 4:本田由紀『(日本の〈現代〉・13)多元化する「能力」と日本社会』NTT出版、2005年11月
 現代の我が国において、「学力」に代表される旧来の「近代型能力」から、例えば「コミュニケーション能力」や「人間力」などといった曖昧な「ポスト近代型能力」に移行している、ということを説いた本。本書の見所は前半で、既存の「努力」概念では計ることができないような我が国の社会の変容や、「人間力」などの言説の広がりを我々に見せ付ける。ただし第4章以降は分析が少々曖昧で面白みが減じる。

 5:土井隆義『〈非行少年〉の消滅』信山社、2003年12月
 少年犯罪の「変質」から現代の若年層の「現実」を描いた本。と入っても著者は「凶悪化」を説くのではなくむしろ「稚拙化」という視座で議論を進めている。説得力のある議論が展開されているのだが、少々若年層を病理的に捉えすぎているのではないかという懸念も強く膨らんだ。またサブタイトルの「個性神話と少年犯罪」を証明しきれたかどうかも微妙なところがある。

 6:森村進『自由はどこまで可能か』講談社現代新書、2001年9月
 自由主義=リバタリアニズムの概説書。国家と個人、自由権、自己所有権、裁判、経済、家族などをリバタリアニズムはいかに捕らえるか、ということから、例えば「リバタリアニズムは特異な人間像を前提にしている」などといった疑問にも答えている。自らの政治的な立ち位置を考える上で参考にしたい1冊。

 7:杉山幸丸『子殺しの行動学』講談社学術文庫、1993年1月
 インドにおけるハヌマンラングール(サルの一種)研究の成果から、「子殺し」のメカニズムを生物学的に解き明かした本で、原書が刊行されたときは世界で大論争を巻き起こしたらしい。研究の記録とエッセイのような文章が見事に融和しており、知的な好奇心をかき立てられる。
 ※現在品切れ。

 8:今西錦司『進化とはなにか』講談社学術文庫、1976年6月
 ダーウィン進化論、及びその理論を更に先鋭化したネオ・ダーウィニズムにおける「自然淘汰説」や「突然変異」を否定し、進化が個体ではなく種のレヴェルで起きることを主張した本。本書には昭和20年代後半から昭和50年ごろまでに様々な媒体に掲載されたエッセイ6本で更生されており、今西進化論のエッセンスが俯瞰できる。

 9:稲葉振一郎『「資本」論』ちくま新書、2005年8月
 社会学や経済学の古典の理念を、「所有」「市場」「資本」「人的資本」の4つのテーマを元に再構成したもので、重要な理論(ホッブズ、ルソー、ヒュームなど)の概説とそれらに対するほかの論者の批判・論争が記されている。読みやすいので、著者の意見ということを考慮に入れれば教科書としても使える。

 10:五十嵐太郎、リノベーション・スタディーズ(編)『リノベーションの現場』彰国社、2005年12月
 我が国における様々な「リノベーション」(建物や都市の修理・改装・再活用)の記録を、講演会形式で報告したもの。私は本書第6章(テーマ6)で紹介されている仙台市卸町地区のリノベーションの報告(「仙台の人と街とリノベーション」)を読むために買ったのだが、「せんだいメディアテーク」の利用報告や卸町の問屋ツアー企画など、見所が満載だった。もちろん他のリノベーションの事例も読んでいて面白い。実際の設計から、テレビ番組「大改造!!劇的ビフォーアフター」まで。

 11:市村弘正、杉田敦『社会の喪失』中公新書、2005年9月
 市村氏が平成3年に書いた、映画に関するテキストを題材に、現在の社会における「戦争」「歴史」「解法」「自由」「世界」「言語」について政治学者の杉田氏と対談したもの。本書の白眉は、最後にテキスト抜きで交わされる「社会」についての対話。もちろんテキストを題材にして行われた議論を前提に行なわれているのだが、その中でも「境界線」にまつわる話は必読。

 12:大竹文雄『経済学的思考のセンス』中公新書、2005年12月
 あらゆる物事を経済学的に捉えること、すなわち「インセンティヴ」を中心にして捉えることを実践するための本。本書の白眉はプロローグの「お金がない人を助けるには?」。これは「お金がない人を助ける」というテーマで経済学者である著者に質問に来た小学5年生の質問に対する解答で、ここを読めば本書の大まかなつかみは大丈夫。第3章「年金未納は若者の逆襲である」もお勧め。

 13:小宮信夫『犯罪は「この場所」で起こる』光文社新書、2005年7月
 環境犯罪学の概説書。「壁」を強化するよりもむしろソフトなアーキテクチャによって「領域性」を強化することのほうが重要だ、というのはまったき正論(関連書として、五十嵐太郎『過防備都市』(中公新書ラクレ)を)。また、「防犯」をインセンティヴとした地域の繋がりの強化策も、ある程度は参考になる。ただし第4章に無視できない俗流若者論が含まれていた。

 ワースト1:岡田尊司『脳内汚染』文藝春秋、2005年12月
 ゲーム規制論は「科学」ではなく「政治」であるということを自ら立証してしまったような本。具体的に言うと、一つのもっともらしい「社会調査」と、報道で聞きかじった程度の推測と、牽強付会だけで成り立っている。

 なぜこの本が「科学より政治」というのか、というと、まずマスコミが喧伝したがる「今時の若者」の「平均的な特徴」なるものを金科玉条の如く取り扱っており、それに対する批判的な視点はほとんどない(とりあえず、4の本田由紀氏の著書を読むことをお勧めしたい)。更に、何でもかんでもゲームに結び付けようとするあまり、誇大な宣伝も目立つし、それ以外にもマスコミはゲーム業界から広告をもらっているからゲーム批判を載せないんだという説明に関すると、だったら何でそこらじゅうにゲーム悪影響論が溢れてんだよとか、お前わざと少年犯罪と「今時の若者」をオーバーラップさせるように書いてるだろ、とか、とにかく疑問ばかりが浮かんでくる。

 ワースト2:草薙厚子『子どもが壊れる家』文春新書、2005年10月
 関連記事:「子育て言説は「脅迫」であるべきなのか ~草薙厚子『子どもが壊れる家』が壊しているもの
 凶悪犯罪をしでかした少年の家庭に関する記述はある程度正鵠を得ているのは認めるものの、やはり第1章で草薙氏が行なった俗説の積み重ね、更に第3章以降の「ゲーム脳」理論への傾倒が本書を一気に駄目にしている。「ゲーム脳」理論に関しては、既に書籍の分野でも多くの批判がなされている(その中でももっとも優れているのが、小笠原喜康『議論のウソ』(講談社現代新書)の第2章)。既に疑似科学であることが明らかとなっている理論に未だ固執するのは、ジャーナリストとしては正しい態度とはいえないだろう。

 草薙氏は「子育てのマニュアルは書き換えられるべき」と述べているが、本書のような青少年に対する偏見とそれに支えられる疑似科学ばかりが記述されたように書き換えられるべき、と草薙氏が主張するのであれば、私は願い下げだ。

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コメント

後藤さんこんにちは。
今回、私の社会問題系ブログを別につくり、そこからTB送信しました。そちらで著書の書評を書きましたので、今後ともよろしくお願いいたします。それにしても、鳥居徹也のあの本はひどいですね。そのうち「俗流若者論ケースファイル」送りになさってはいかがでしょうか。

投稿: Lenazo | 2006年1月17日 (火) 21時11分

 後藤さん、出版デビューおめでとう!後日うちのブログでもアフィリエイト入れときますので。

投稿: 克森淳 | 2006年1月18日 (水) 03時50分

後藤さん、出版おめでとうございます。いやこういう本こそが必要だと思いますね。今後ともがんばってください(もちろん私も買いました。)

>右翼本やアメリカ式成功哲学本
アメリカ式成功哲学本はともかく右翼本はよく見かけますね。(それも煮ても焼いても食えない正論やWillが多い…同じ右翼本でも諸君!ならばまだ読み応えのある論文も多いというのに…ただ諸君!はこの2つに比べると余り見かけないんだよね。)

投稿: hts | 2006年1月18日 (水) 23時03分

今日の夕刊(河北)を見たら、また大谷が電波全開でかたっていたね。変態的コミックは~とか語っているけど、そもそも変態的コミックが性犯罪を誘発するという根拠はないし、それに彼が叩きそうなその手のコミックに限っていえば、今よりも80年代の方がひどいはずですが…。

投稿: hts | 2006年1月25日 (水) 20時31分

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「ニート」って言うな! 本日発売のこの本を買うために市内のいくつかの書店を回りましたが、右翼本やアメリカ式成功哲学本はごろごろ平積みしてあるのに、この手の本当に重大な問題提起を行っている良著が置かれていないことに、我が街の民度の低さを感じました。結局、北本市内の某書店で買うことができましたが…… 本書は大きく3つのパートに分かれており、第1部を本田由紀氏、第2部を内藤朝雄氏、第3部を後藤和智氏がそれぞれ担当する形をとっております。本田氏は専門の教育社会学の立場から「ニート」をデータを多用... [続きを読む]

受信: 2006年1月17日 (火) 21時08分

» 焼石亭 『ニート』って言うな! [走れ小心者 in Disguise!]
・「ニート」って言うな!  うちのブログをよく読んで下さってらっしゃる後藤和智君が、本田由紀・内藤朝雄両氏と組んで本出しました!おめでとー!!  “「ニート」問題”を巡る俗論のみならず、マスコミの若年層総体への批判(後藤君言うところの「俗流若者論」)を解体する良書。  本田氏による「現実」、内藤氏による「構造」、そして後藤君による「言説」の3部構成となっており、第2部である「構造」では「青少年の凶悪化」に関するウソを暴くデータがまとめられていて、「青少年健全育成」の美名の下に表現規制したがる連中... [続きを読む]

受信: 2006年1月18日 (水) 19時25分

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受信: 2006年1月19日 (木) 13時06分

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