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2006年1月20日 (金)

俗流若者論ケースファイル77・宮嶋茂樹

 『「ニート」って言うな!』(光文社新書)発売記念として、「週刊文春」平成18年1月19日号の特集「天下の暴論2006」に掲載された、「不肖・宮嶋」こと報道カメラマンの宮嶋茂樹氏による文章「聞けタイゾー 「徴兵制」こそニート対策」を検証しよう。「タイゾー」とは、もちろん宮嶋氏が《売国政治家がりっぱに見える小泉小僧(チルドレン)、あの杉村太蔵》(「週刊文春」平成18年1月19日号、以下、断りがないなら同様)と批判してやまない、衆議院議員の杉村太蔵氏のことである。

 というわけで最初に血祭りにあげるのはこの部分である。宮嶋様どうぞ。

 それに何じゃあ、フリーターどころか、ニートまで救済するやと?税金も払わん上に、三十路になっても親がせっせと部屋にエサを運びつづけ、パソコンに向かってしか他人と会話できん奴のことをニートと呼ぶそうやないか。そんな穀潰しが何十万も生きておるんは世界広しといえども我が国だけや。

 『「ニート」って言うな!』の著者の一人として、なんとも批判したい気持ちに駆り立てられる文章である。そもそも「ニート」とは、要するに15歳から35歳までの間にある人で、かつ就業もしていなければ職業教育を含む教育を受けていない人「全般」を指す。この「全般」というのがポイントで、我が国では如何なる事情を持っていても――例えば、東京大学助教授の本田由紀氏によれば、例えば「病気・けがのため」に働けない人がおよそ10万人、「知識・能力に自信がない」ゆえに働けない人がおよそ4万人いる(本田由紀[2006])――、「ニート」という言葉で丸められることによって一様に「問題のある」存在となされてしまう。そもそも個人の事情を考慮しないまま、宮嶋氏は「ニート」を、本来の意味を調べもせず《税金も払わん上に、三十路になっても親がせっせと部屋にエサを運びつづけ、パソコンに向かってしか他人と会話できん奴のこと》などと「説明」してしまっている。そもそもこれは、最も悪いイメージの(!)「ひきこもり」を指しているようにしか見えない(そもそもこのような見方は、「ひきこもり」の人々に対する偏見でもある)。宮嶋氏は、「ニート」と(勝手に)呼ばれる80数万人の人が、みんな宮嶋氏のイメージどおりであると考えている節がある。

 さて、宮嶋氏の文章のタイトルには「「徴兵制」こそニート対策」とある。宮嶋氏が徴兵制について述べている部分を読んでみよう。

 お隣の半島南半分ではJリーガーから、大統領まで男は全員二年以上の徴兵や。我が国も二年とまで言わん。せめて一年、いや八ヶ月でもエエわ。戦後六十年、今まで学校のセンセイ方がないがしろにしてきた規律、勇気、自己犠牲、国防意識という美徳をその間、自衛隊で徹底的に教育しなおすんや。

 このような「徴兵制」に対する甘いイメージでもって徴兵制を導入せよ!などと叫ぶ人は、ではなぜ韓国では「ひきこもり」が問題化しているのか、ということに対して答えることができるのだろうか。精神科医の斎藤環氏は、韓国の事例を引いて、徴兵制が決して「ひきこもり」対策にはならないことを論じている(例えば、坪内祐三、福田和也[2004]84ページ。韓国の「ひきこもり」事情に関しては、斎藤環[2005]が詳しい)。ここで、宮嶋氏は「ひきこもり」を語っているのではない、という反論がきそうだけれども、宮嶋氏の文章を読めば、明らかに宮嶋氏が「ひきこもり」=「ニート」と捉えている――それも最も悪いイメージで――ことがわかる。

 もう一つ言えば、徴兵制をしき、《規律、勇気、自己犠牲、国防意識》が根づいている「はず」の韓国に比して、徴兵制がなく、「ニート」が急増して、《規律、勇気、自己犠牲、国防意識》が衰退している「はず」の我が国のほうが、青少年によるあらゆる凶悪犯罪の人口あたりの件数が少ない。更に、我が国は、他の先進諸国に対しても、青少年の凶悪犯罪の人口あたりの件数が少ない。宮嶋氏には、このような疑問にも解答していただく必要があろう。

 さて、宮嶋氏は、《我が国の周りで徴兵制をしいていないのはアメリカぐらいやが、大統領令で、すぐに徴兵制に移行できる。ドイツは徴兵期間の代替に奉仕活動を選択できるし、イタリアは戦時になれば徴兵制復活が可能や》といっているのだが、宮嶋氏は、我が国に徴兵制を復活させるために、テロでも起こして、我が国を「有事」状態にしてしまうのであろうか…というのはよからぬ妄想ではあるが、いずれにせよ、宮嶋氏が短絡的なイメージで「ニート」、更には若年層全体を語っているのは明らかであり、宮嶋氏の議論を支配しているのは、「健全な精神」さえあれば青少年問題は解決できる、という甘い考えである。「健全な精神」ばかり教えたところで、現実の問題、例えば景気の問題や、教育システムの問題、あるいは雇用主の問題、雇用形態の変化が解決されなければ、結局は、大東亜戦争に突き進んで負けたある時期の我が国と同じ末路をたどってしまうかもしれない。

 とにかく、「ニート」って言うな!

 参考文献・資料
 本田由紀[2006]「「ニート」論という奇妙な幻影」=本田由紀、内藤朝雄、後藤和智『「ニート」って言うな!』光文社新書、2006年1月
 内藤朝雄「社会の憎悪のメカニズム」=前掲『「ニート」って言うな!』
 岡本薫『日本を滅ぼす教育論議』講談社現代新書、2006年1月
 斎藤環[2005]『「負けた」教の信者たち』中公新書ラクレ、2005年4月
 坪内祐三、福田和也[2004]『暴論・これでいいのだ!』扶桑社、2004年11月
 尹載善『韓国の軍隊』中公新書、2004年8月

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コメント

そもそも徴兵制で規律、勇気、自己犠牲、国防意識が根付くのもあやしいですけどね。
まあ彼の意見の中で一つでも救いがあるとすれば、徴兵制が採用されれば俺も行くといっている点ですけどね(これで自分は年寄りだからとか働いているから行かなくてもいいと書いたら完全に糞飯ものになりますけど…)。

投稿: hts | 2006年1月21日 (土) 00時27分

 徴兵制ってのは、陸上に長大な国境線があってどうしても国防のためには予算だけじゃなくて頭数がいるという事情のある国がやるもんなんだけどなあ。
 つまり、「必要だから徴兵する」んであって「人間が余っているから徴兵する」なんてアホな例は存在しない。このおっさんはいままで自衛隊関係を山ほど取材しておきながら、軍事に関する基本的な素養もないんだな。

投稿: 緑川だむ | 2006年1月21日 (土) 09時44分

まあ、アレだ、このての人は「日本が豊かになって働かなくても食えるようになったのが働かない人間が増加した原因だ」と思ってるんですから、
こんな人を一掃するためにも「東京に核ミサイルが落ちたらいいのに……」って思いますよ。
(あえて書くけど300~400万人、人が減っても日本は滅亡しないし、東京の生活インフラがつぶれれば単純労働の市場価値が暴騰して、ニートがみんな働くようになります。若者に働いてもらえることのありがたみを消費者や経営者や老人にわからせるのが、第一です。)
働かない人が増えたのは、単純労働の市場価値が暴落して大半の若者にとって「働いたら負け」って風潮が共有されつつあるから。

投稿: anomy | 2006年1月22日 (日) 22時33分

TBありがとうございます。ならびに著書の上梓、おめでとうございます。

文芸春秋社nの出版物のうち、デムパなのは「諸君!」だけではなかったのですね。(^^A;)

そういえばいつだったか上山一樹さんが本田由紀さんのブログで発言していらっしゃったけれど、徴兵制への過剰な幻想はどこから来るのでしょうか?

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4622071169/qid=1138020769/sr=1-1/ref=sr_1_2_1/250-5832847-5903406

ガーディナーによる戦争神経症の本↑ によれば、軍隊では通常の市民生活のなかでは大目にみられた「発達」上の課題未達成も厳しく問われ、極限生活を強いられます。そのため心の痛みが体の痛みに転換したり、生きるエネルギーが枯渇しかけて食欲不振や無気力になるといった問題が起こります。普通の生活では健康な人でも病気になるということです。
そんなところに社会的に不利な条件におかれ、それゆえに精神も不安定になりがちなグループを投入すればどうなるか、悪い予想のほうがぐっと強くでるはずなのですが……。

投稿: ワタリ | 2006年1月23日 (月) 22時04分

軍隊に行ったらしっかりするという発想に根拠はないと思います。
アメリカじゃ退役軍人の精神疾患が問題となっています。
http://www.kingcountyjournal.com/sited/story/html/219744
徴兵制しいた結果、殺人にためらいのない若者が社会にいっぱい出て行くほうが、
よっぽど危険ではないかと思います。

投稿: おこじょ | 2006年1月24日 (火) 16時32分

「…部屋に『エサ』を運び…」完全に動物扱いですね。
自らの社会評論の焦点である「ニート(だと宮嶋氏が思っている人)」を動物扱いする宮嶋氏のこの発言こそ、
彼に「ニート」の姿を正確に捉える意志がないことを最も雄弁に物語っているように感じます。
彼はこの発言により、「私の論は間違った認識に基づく差別主義的な“娯楽作品”です」と自白しているのでしょうか。

投稿: 西湖 | 2006年1月26日 (木) 00時22分

TBさせていただきました。
さらに、著書の刊行おめでとうございます。TBさせてもらったページも『「ニート」って言うな!』をだいぶん参考にさせていただきました。ありがとうございます。
それにしても、ニートに関する歪んだ認識はここまで来てるわけですね。困ったものです。記事の著者である宮嶋氏はいい物笑いのタネにしておけばよいのですが、こうした誤った認識に共感する人がいるのがタチの悪いところですね。
今後もこのページを読んで勉強したいと思いますので、頑張って更新してください。

投稿: TORI | 2006年1月27日 (金) 11時15分

 そもそも徴兵と、その兵力の維持のための財源は有るのか?
 そしてそれが日本の国力に見合ったものなのか?
このような観点からも私は徴兵制には懐疑的です。

 また、宮嶋氏は軍隊を若者を鍛える組織だと勘違いをしているようですが、そもそも軍隊は国防組織です。そして、科学技術が進歩する今現在は兵士の数よりも兵器のクォリティと威力がものを言う時代であり、徴兵制は今後の戦闘の様式には見合わないものです。
 宮嶋氏の頭の中にはいまだに菱形戦車や羽布張りの飛行機、石炭で走る軍艦が現役なのですかね。

投稿: 日本ハッテン党幹事長 | 2011年3月31日 (木) 21時20分

そもそも韓国人がアレだけ偏執的な自国愛に溺れてしまう原因に、兵役時の「愛国教育」が挙げられている事を、宮嶋はどう見るのだろう…

投稿: | 2012年4月15日 (日) 22時38分

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