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2006年6月24日 (土)

コメントへの返答・06年06月24日

 「論壇私論:「論座」平成18年6月号」に寄せられた以下の質問にお答えします。

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 本筋からそれますが、信田さよ子氏が「アダルト・チルドレン」に関する謝った理解も待て広めているとありますが、では管理人さんのアダルト・チルドレン理解はどのようなものでしょうか?ぜひお聞かせ下さい

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 まず、引用文中の《「アダルト・チルドレン」に関する謝った理解も待て広めている》というくだりにおける、《謝った》は「誤った」の、《待て》は「また」の誤りでした。訂正します。

 さて、「アダルト・チルドレン」に関してですが、この言葉の本来の意味とは、《幼少期にアルコール依存症などの親から精神的・肉体的な虐待を受けたことが原因で、情緒不安定・鬱状態・拒食・過食などに陥りやすい性格が形成されている大人のこと》(『明鏡国語辞典』大修館書店)というものです。この言葉が生み出されたきっかけは、1980年代の米国におけるアルコール依存症の治療の「副産物」として生まれた概念です。

 それが我が国において平成7~8年頃に我が国に紹介されると、その言葉が意味を薄められて、自らも「アダルト・チルドレン」であると「宣言」してしまう人が続出しました。そればかりではなく、単純に「大人になりきれない「今時の若者」」という歪んだ解釈も一部で出てくるようになった。その延長上にあるのが、私が『「ニート」って言うな!』(光文社新書)でも批判的に触れた、荒木創造『ニートの心理学』(小学館文庫)です。

 話が少々脇道にそれてしまいましたので元に戻しますと、私が「ベター4」として採り上げた信田氏の文章では、下のように書かれています。

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 イノセンスに魅せられ自己責任からの解放を求めたひとたちに対し、96年から私は一貫して①の方向性(筆者注:PTSD概念の、《フェミニズムや女性学の発展、虐待した親の告発》などにつながる影響)を目指したカウンセリングを行なってきた。(信田さよ子「タイム・トリップの快感?――江原啓之と前世ブームが意味するもの」=「論座」2006年6月号)

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 しかし、米国における「アダルト・チルドレン」運動のもたらした悪影響に関し、信田氏が無視しているという点について私は疑問を持たざるを得なかったのです。たとえば、このような「アダルト・チルドレン」運動による「告発」によって、「告発」した人の父親に冤罪が生じ、家庭崩壊が起こってしまったというケースもあり、また、「カウンセリング」と見せかけて実のところほとんど「偽の記憶」だった、ということもあります。この点に関して、信田氏はどう思っているのか、と私は思います。

 また、前述の通り、我が国においては「アダルト・チルドレン」という言葉は本来の意味を通り越していつの間にかものすごく拡大解釈されるようになってしまった(「ニート」という言葉がそうであるように)。ですから私は、「アダルト・チルドレン」と言うことは極力使いたくないのです。

 もう一つ、この「アダルト・チルドレン」運動を支える「トラウマ理論」とでも言うようなものに関する私の疑問として、人間の行動に関してある2つの現象を単純に因果関係としてみることの妥当性に対するものもあります。これに関しては、児童虐待に関して質問を受けたときも述べましたので、ここで繰り返す必要はないと思います。

 最後になりますが、この問題を考える上で参考になるものをいくつか挙げておきます(「アダルト・チルドレン」運動に対して批判した矢幡洋氏の著書は残念ながら未読です)。

 岩波明『狂気の偽装』新潮社、2006年4月
 ウルズラ・ヌーバー『〈傷つきやすい子ども〉という神話』丘沢静也:訳、岩波現代文庫、2005年7月

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コメント

随分と粘着質にアダルト・チルドレン(以下AC)にこだわるコメント子がいらっしゃるようですが、本来ACは後藤さんの引用された定義が正しいものです(現在はこれをACOA=アダルトチルドレン・オブ・アルコホリックと呼んでいます)。信田さよ子氏のほかに、この概念を広めた人物として斎藤学氏(精神科医)が挙げられますが、斎藤氏はMSN毎日インタラクティブの連載上において、このACという概念が若者たたきの道具に使われてしまったことを認識しており、「もし生きづらさを感じたときにこの言葉を思い出せば役に立つこともあるだろう」とかなり控えめの記述に終始しております。また、ニートに関しては明確に「中年オヤジの趣味」と斬り捨てていますので、ACに関する問題については、ACがスティグマとして用いられたことへの反省がない信田氏より信用する価値の高い議論を展開していると思われます。
後藤さんも匿名さんもご参考まで。

投稿: Lenazo | 2006年6月25日 (日) 09時54分

アダルトチルドレンの語源が adult children of alcoholics だというのに追加して。この表現は要するに、アルコール依存症の親をもって育った子どもという意味の表現でしかないのですが、children of alcoholics(アルコール依存者の子どもたち)というといまもまだ子どもだという印象を受けるので形容詞として「大人になった」アルコール依存者の子ども、という意味で言われたのです。すなわちこの「children」は本来家族関係を示すだけの符号だったわけですが、日本での使われ方をみると「おとなこども」「おとなになりきれないおとな」的に、「children」に特別な意味を与える解釈が多いようです。元はそのような意味は一切なかったはずですが。

投稿: macska | 2006年7月 2日 (日) 05時47分

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受信: 2006年6月25日 (日) 23時55分

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