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2006年6月20日 (火)

論壇私論:「論座」平成18年5月号

 ベスト:該当なし
 全体として面白い論考が多かったのだが、取り立ててベストに採り上げるようなものはなかった。

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 ベター1:岡本行夫「欧米知識人の間で高まる「靖国史観」への疑問と懸念」
 対中関係の言論に関して、「中道は」が出づらくなった、ということは、同じ号の宮崎哲弥氏と川端幹人氏の対談(「中吊り倶楽部 宮崎哲弥&川端幹人の週刊誌時評」)でも触れられている。このような認識は岡本氏も共有しているようだ。岡本氏は「是々非々」の立場を堅持する、というが、確かに昨今における日中関係の言説にはこのような立場も有効かもしれない。

 岡本氏の展開する話題は、それ以外にも「戦争責任」の取り方の日本とドイツの違いや、欧米の知識人の日中関係に関する日本への「助言」、いや、むしろ「批判」と呼べるような苦言の存在など、これから先の日中関係を見ていく上では参考になる発言も多く、興味深い。

 ただし…。54ページの最後から55ページのほうの、「広汎性発達障害」に関するアナロジーはどう見ても不適切であろうし、俗流若者論に結びつく可能性も高い。この点はもう少し考慮してほしかったかな。

 ベター2:山田真一「「指定管理者制度」の盲点」
 「指定管理者制度」とは、公的施設(病院、福祉施設、文化施設、さらには公園や道路、下水道まで)の管理・運営に関して、民間のノウハウを取り入れるなどして効率化し、またコスト削減にも役立てようというもの。しかしこの制度の導入に関して、理想とは逆の方向に向かっているというのが現状である。たくさんの企業が視察に来たにもかかわらず実際に管理者の公募に応募してきた会社はたった4社だったり、選定過程の不透明さに議会が紛糾したり、応募条件から「運営実績」を外したり。問題だらけのこの制度、まずなすべきことは情報公開である。

 ベター3:飯尾潤「潮流06 ポスト小泉「若さ」の実質を問おう」
 《若いというだけで評価されるのは、「敵の敵だから、味方だ」といった具合で、打ち倒すべき旧来型政治から離れているから評価されているに過ぎない》至言。そして《若さを支えるチームワークにもっと過信が向けられてもよい》というのもまた至言。単純な「若さ」礼賛と、その裏返しに過ぎぬ「若さ故の未熟さ」批判の繰り返しでは、何も生み出さないのである。

 ベター4:高木浩光「あまりにも情報流出のリスクが大きい」
 「ウィニー問題」に関する基本的な認識を得るためには打ってつけ。新聞の下手な解説記事よりわかりやすい。

 ベター5:松本健一「「アジアン・コモン・ハウス」の可能性」
 現代のナショナリズムは、まず、軍事力を主体とする「テリトリー・ゲーム」で、戦後になると経済力を主体とする「ウェルス・ゲーム」となり、現在はグローバル化する社会の中で自らの存在感を示すための「アイデンティティー・ゲーム」となった。その中においていかに「アジア的価値観」を見いだしていくか。そのためには先の大戦の反省に裏打ちされた歴史認識を持つとともに、「自分の国は自分で守る」気概を表明するために憲法を改正する必要がある、という。

 「東アジア共同体」に関していうと、名著である『中村屋のボース』(白水社)を書いた中島岳志氏(日本学術振興会特別研究員)もまた、歴史と向き合うことの重要性を主張するとともに、「思想としてのアジア」というか第二正面から向き合う必要がある、と訴えている(「その先の東アジア共同体へ」(「論座」平成18年3月号))。また中島氏はインドに関しても警鐘を鳴らしているが(http://indo.sub.jp/nakajima/?itemid=572)、松本氏はインドについてはいかなる考えを持っているのだろうか。

 ワースト1:戸矢理衣奈「潮流06 リセット力」
 戸矢氏2回目の「下流社会」論。前回(「論座」平成18年2月号)での問題点が克服されていないどころか、さらに戸矢氏の青少年に対する認識が狭隘になっているのは痛い。浅野智彦(編)『検証・若者の変貌』(勁草書房)、本田由紀、他『「ニート」って言うな!』(光文社新書)でも読んで出直していただきたい。

 ワースト2:山口二郎「右派論壇の不毛を問う」
 論旨にほとんど異論はないのだけれども、最後のほうで、速水敏彦『他人を見下す若者たち』(講談社現代新書)なる若年層バッシング本を絶賛しているのはどうよ?山口氏によれば――まあいわゆる左派が若年層を批判する場合でも同様のレトリックが用いられるけれども――、主としてネット上に右派的言論がはびこる理由は、国際的なわが国の地位の相対的な低下で失われる自己肯定感を得たいからだとさ。はっきり言う、そういうことはまず若者論に言ってくれ!

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